ティファニー・ブルーの手帳

秋も深まると、書店・文具店の店頭には、色も大きさもデザインも多様な手帳が多数平積みされる。これも初冬の風物詩のひとつだろう。そんななか、女性たちの注目を集めているのが、ティファニー・ブルーの洒落たダイアリー。米国の宝飾品ブランドTIFFANY&CO製で、発売と同時に売切れ必至の人気商品だそうだ。

われわれの知財業界では、ティファニー・ブルーといえば、色商標(色彩のみからなる商標)制度を思い浮かべる。我が国では2015年度より、音商標・位置商標などとともに新しいタイプの商標として制度スタート。先行して制度をもつ米国の色商標登録例(米国商標登録第2416795他2件)としてティファニー・ブルーが挙げられていたからだ。

「ジュエリーでこの色といえば、どのブランド?」ときけば、ほとんどの女性たちが正答する。この識別性が登録のカギというわけだ。

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ティファニー・ブルーは、コマドリの卵の色に由来するティファニー社のコーポレートカラーで、米国の色商標登録では、宝飾品など取扱品目の区分で、ペーパーバック、ボックス、巾着(ジュエリーを入れる布製小袋)を登録している。日本国内での権利関係はどうかと調査してみたところ、「TIFFANY BLUE」のロゴは国際登録されているものの、色彩商標では、まだ出願されていないようだ。というのも、日本の色彩商標は、制度スタートしたものの、いまだ登録例がないのが実状。469件すべてが審査期間中となっている(2016年10月末現在)。識別力ばつぐんのティファニー社でさえも、日本の色商標制度の行方を様子見しているのかもしれない。

 

コーポレートカラーを徹底させる

 

では、ティファニー社は、世界でどんなカラー戦略をとっているのかといえば、ロゴや標準文字の商標の他に、スカーフやジュエリーの箱、布製巾着を「立体商標」として色付きの図柄で国際商標登録している。立体商標とは、立体的な形状からなる商標のことで、日本では、カーネル・サンダース立像(日本ケンタッキー・フライド・チキン株式会社)や動く蟹看板(株式会社かに道楽)などが有名。なるほど──ブランド&イメージ戦略に長けたティファニー社ならではだ。

また同社ではパッケージやペーパーバック、グッズ類のほか、モデル撮影の際のバックカラー、白とティファニー・ブルーのツートンカラーを基調にしたパンフレット類やホームページ、ブティック店内インテリアに至るまで、カラー戦略を徹底させている。われわれは、そこを見習うべきだといえるだろう。

 

特許業務法人プロテック プリント版ちざいネタ帖 VOL.14 2016/11/01より。

 

 

ヴィジュアル系バンド名の商標公売

2016年9月中旬、ロックバンド「黒夢」の商標権が、東京国税局によりYAHOO!官公庁オークションにかけられていることが報じられた。黒夢といえば、インディーズの世界では名古屋2大巨頭といわれたヴィジュアル系バンド。CD総売り上げも約531万枚。2009年に解散したものの、2010年からはスポット的に活動を再開している。

報道によれば、ヴォーカルの清春が代表を務めていた(有)フルフェイスレコードの法人税滞納により商標権が差し押さえられ、インターネット公売にかけられたもの。オークションを確認してみると「黒夢」「KUROYUME」など4商標がせり売りされ、落札価格合計は140万9000円にのぼった。

この商標権、詳細に見てみると、活動停止宣言後の2007年に「黒夢(呼称=クロユメ、コクム)」(第5106735)を貴金属(第14類)及び被服及び履物(第25類)で出願の後、翌年に同名称をレコード・音楽ファイル等(第9類)や音楽の演奏(第41類)のほか、食器類(第21類)や喫煙用具(第34類)など、10の区分に拡充して出願。つまり、いったん休業宣言したものの、グッズ販売を含めて再起をはかろうとした心意気が見てとれる。

知的財産権は質権設定もできる

芸能人など有名人の芸名や肖像には、パブリシティ権と呼ばれる人格権のもとにあり、今後のライブ活動など普通に用いられる状況で黒夢を名乗ること自体は、実は問題ない。

しかしながら、黒夢と記載したCDやTシャツ、グッズ等の制作・販売に関しては、商標権侵害になる⋯⋯というのが、知的財産法上の原則でもある。

(有)フルフェイスレコードの現社長佐々木氏は、弁護士に一任して対応を進めている旨声明を発表し、落札者からの買い取りを希望しているそうだ。

芸名のパブリシティ権と商標権の関係については、本名で活動し、いったん芸能活動を休止していたアイドルタレント加護亜依が、前事務所で名前を商標登録されていたため、新事務所に移籍するにあたり障壁になった例もある。解釈があいまいな部分もあり、商標権と芸名をめぐるトラブルは、近年いっそう増える一方。ご自身で商標権を取得しておいたほうが安全⋯⋯とアドバイスするほかない。

ところで、今回黒夢が大きな話題になったのは、商標権が国税局の差押の対象であるということだろう。商標権に限らず、特許権など知的財産権(無体財産権)は、質権設定や差押の対象。ただし評価額の設定や、特許の場合は使用権など、価額算定もひとすじ縄にはいかず、実際には課題も少なくない。

黒夢の公売開始価格をみても、商標取得実費程度を設定したかのようにみえる。東京国税庁のオークションにおいても、知的財産権を公売にかけるのは稀なケース。まだまだ売れる、欲しいひとがいるに違いない(債権回収可能と思われる)──著名なバンド&商標なればこそ、ということだったろう。

 

*特許業務法人プロテックちざいネタ帖VOL.14(2016/10/05)より

 

*参考:クロユメが含まれる商標(J-Plat Pat)

 

 

うなぎの町のブランディング

感動のリオ・オリンピック閉幕とともに、2020東京五輪への新たなステージが始まった。

建築・土木や環境技術等、技術分野の進展による特許出願のほか、関連グッズの商標出願など、知的財産業界においても、未来の日本への礎(いしずえ)をかたちづくるチャンスであるに違いない。

そんななかでいっそう注目されるのが「地域ブランド」だ。クールジャパンのかけ声のもと、「地域創生」も活発化。農業・水産業の六次産業化の推進もあり、地域おこしの場面では、「ブランディング」という言葉をよく耳にする。そんななか成功事例として注目されているのが、浜松市の「うなぎいも」だ。

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大正時代から続く造園業者が、剪定等の廃棄物を利用した堆肥の製造販売を発展させ、名物のうなぎの頭や骨などの残渣(ざんさ)を用いた堆肥を製造。以前は浜松市内にあるうなぎ専門店や加工業者が有料で処分していたものを無料で回収し、草木由来の堆肥とブレンド。この堆肥で育てたさつまいもをブランド化したプロジェクトだ。

生鮮のさつまいもを栽培・販売するほか、地元ホテルの協力を得て、うなぎいもプリンを商品開発。さらにプリンに用いる鶏卵についても、うなぎの残渣をエサにするなど養鶏農家を巻き込んだ。プリンの製造過程のさつまいものペースト(加工品)も、地域の製菓店に販売し、クッキー等の焼き菓子、うなぎいもアイス、うなぎいもシェイクなど、数多くの「うなぎいも」スイーツを誕生させた。さらに、耕作放棄地等を活用したうなぎいも栽培も始まり、農業振興の一助となっているそうだ。

 

ブランド戦略のカナメは商標

 

現在では、うなぎいも生産組合のほか、加工業者、販売業者からなる協同組合を発足。関連商品は、42商品、商品販売額約5億円だという(2015年)。市中には「うなぎいもカフェ」があるほか、ゆるキャラ「うなも」も人気。販売促進や植付体験、焼芋試食会などのイベントも盛ん。海外への紹介も始めた。浜松といえば「うなぎ」──まさに、地域資源を掘り起こし、官民一体となった取組みは、地域ブランディングのお手本でもあるだろう。

うなもゆるきゃら

 

商標「うなぎいも」は、いもやいもの加工品、菓子及びパン、レトルトなどの加工食品、日本酒などの区分で、プロジェクトの中心企業、(有)コスモグリーン庭好が保有している。「うなぎいもブランド認定」制度をつくり、ロゴやキャラクターの使用許諾を行っているそうだ。しかし、詳細に商標データベースを調べてみると、ゆるキャラ「うなも」については未出願。もちろん外国出願もまだだ。派生商品「うなぎ米」は別の個人の権利となっている。つまり、プロジェクトの広がりに対して商標戦略が追いついていないかのようにみえる。

実状と未来予測──われわれ知的財産を業とする者の真価が問われている。

*特許業務法人プロテックちざいネタ帖VOL.13(2016/08/31)より

*参考:うなぎいもOFFICIAL WEBSITE

http://www.unagiimo.comhttp

 

〝悪意〟に負けるな!商標登録

このところ「悪意」という言葉をよくみかける。といっても知的財産やそのニュースの世界のおはなし。具体的には「悪意の商標出願」というものだ。

当初、悪意の商標出願として問題になったのは、中国企業などが、諸外国の地域の特産品の名称や人気キャラクターなどの名称を無断で商標登録していることをさした。例を挙げれば、八女茶・宮崎牛などの地域産品をはじめ、クレヨンしんちゃんのキャラクター、備前焼や輪島塗といった伝統工芸品のほか、ヨネックスや無印良品のロゴも現地で商標登録され、粗悪品が出回るなど被害は甚大。

特許庁では2015年6月『悪意の商標出願に関する報告書』を発刊。これは2014年末に東京で開催された日米欧中韓の商標担当五庁による会合における各国の制度・運用に関する報告書で、つまり商標やブランドの重要性が広く一般に浸透し、また商品・サービスがグローバル化するにつれ、こうした悪意が跳梁跋扈する事態に。各国でも対応に追われているものの、策は後手に回りがちだ。

ちなみに中国で訴訟を起こすには500万円以上の費用がかかり中小企業には大きな負担。そこで特許庁では海外での知財侵害対策事業の一環として訴訟費用補助制度を開始した(〜2018年度まで)。 悪意に対してどう防御し対抗していくか──領海侵犯と同様、性善説では対抗できなさそうだ。

全出願の1割超!悪質な商標出願

さらに──国内の商標出願シーンでも〝悪意〟が問題として浮上してきた。「STAP細胞はあります」「自撮り」「歩きスマホ」「保育園落ちた」など、誰もが知る言葉をある特定の会社が商標出願。他人の商標を先取りするようなその出願数は平成25年以降年間1万件以上にのぼり、平成27年には、年間10万件前後といわれる全出願数の1割以上を占めた。このほかに、政党名の「民進党」や群馬県で開館予定だった文化複合施設の愛称「太田BITO」も、「BITO」 が出願されるなど、影響は多方面に渡る。これがTwitterの商標botで話題を集めるようになり、困惑が広がっている。

特許庁では2016年5月17日、「自らの商標を他人に商標登録出願されている皆さまへ(ご注意)」と題し、「ご自身の商標登録を断念する等の対応をされることのないようご注意ください」と異例のコメントを発表。これらの出願のほとんどが、特許庁へ支払う出願手数料(印紙代 ともいう)の支払いのない、手続上瑕疵のある出願で、 出願の日から一定期間は要するものの出願却下処分を行っていることを説明している。トラブルを避けたいがために正当な出願者が登録を断念する必要はまったくない。

断固たる態度で臨めば、おのずと解決の道は見えてくるはず。気になったらまずはご相談ください。

特許業務法人プロテック プリント版ちざいネタ帖 Vol.12 2016/08/05より

ただのりNG! 地域団体商標

小田原おでん本店では、かまぼこメーカーの食べ比べができる。
小田原おでん本店では、かまぼこメーカーの食べ比べができる。

 

いま、“小田原”が熱い。

1月に放送されたNHK『ブラタモリ』では小田原用水など「小田原は江戸どころか全国の城下町の原点」とタモリが絶賛するほど。2016年5月1日には小田原城天守閣がリニューアルオープン。地域の木材を用い、木造構法による耐震改修が市民グループも参画して完成し、人気を集めているそうだ。

その、小田原で商標トラブルが起きた。

地域団体商標「小田原かまぼこ」(第5437575号)、「小田原蒲鉾」(第4734753号他)を無断使用しているとして、小田原蒲鉾共同組合が神奈川県南足柄市の食品会社を相手どり、販売差止と損害賠償約5000万円を求めて訴訟提起。2016年5月27日、第一回口頭弁論が横浜地裁小田原支部において開かれた。

地域団体商標「小田原蒲鉾」

商標「小田原かまぼこ」、「小田原蒲鉾」は、平成23(2011)年登録の地域団体商標。組合側では組合に未加入の食品会社が“小田原かまぼこ”の名を用いて首都圏のスーパーなどに販売しており、再三の警告にもかかわらず商標の使用を中止しなかったための提訴と説明。一方の食品会社では「商標登録以前から名称を使用していたので権利の侵害にあたらない」と主張し、全面戦争のかまえだ。

 

おでんも熱い! 攻めの小田原

 

地域団体商標とは、地域特産の農産物名などに地域の事業者が協力して商標権を取得する制度。一定の地理的範囲で有名であること、地域名+商品・役務名で構成される商標である等の条件がある。地域団体商標は、出願以前から使用している場合はその範囲内で使用が認められるため、食品会社側は出願以前の使用を立証できるかどうかがポイント。ただしこの継続的使用権は「不正競争の目的でないこと」が要件。つまり、出願以前であっても「小田原かまぼこ」がすでに広く知られていた後に「ただのり(=フリーライドという)」している場合には認められない。ちなみに小田原かまぼこの発祥は天明年間という説が有力だ。

ところで、小田原蒲鉾共同組合をベースに、もうひとつの小田原名物が誕生している。それが「小田原おでん」(第5061077号)。蒲鉾業者13社のほか、豆腐・こんにゃく店など地元商店により「小田原おでん会」を組織。30種以上のオリジナルおでん種が創出されている。小田原城址公園を会場にした「小田原おでんサミット」、「小田原おでん種コンテスト」、「小田原おでんまつり」なども定着。かまぼこ通りには実店舗「小田原おでん本店」もある。

地域産の材木使用や地域の伝統的職人の手による落ち着いたインテリア、各社による個性的なおでん種が一つの鍋で煮こまれる光景──地域を愛し、手を携えて未来を創り出そうとする姿が見えてくる。

 

*特許業務法人プロテック プリント版『』ちざいネタ帖(VOL.11/2016/6/30)より

アップルでさえ失策? グローバル時代の出願区分

観光地に出かけると、あらためて実感するのが、訪日外国人、それも個人旅行者の急増。スマホ片手に路線バスを乗り継ぎ、手元をのぞいてみるとアップル社のiPhoneユーザーが過半数──。いまや中国におけるiPhoneの販売台数が米国でのそれを上回る勢いで伸長しているそうで、グローバル化とはこういうことかと思い知る。

こうした中国本土でのiPhone人気を裏付けるように、2016年5月、「米アップル社が中国でiPhone登録商標の奪還に失敗」というニュースが流れた。初代iPhoneは、2007年1月に米国において発表され同年6月に発売開始。日本を含む22地域で2008年7月11日、中国本土では2009年10月30日に発売された。

今回問題となったのは、中国の新通天地社の商標「IPHONE」。2007年9月、同社が皮革製品の区分(18類)で出願し、2012年になってアップル社が異議申立をしたものの翌13年に敗訴。今回高等裁判所から、アップル社の訴えを退ける判決を下されたものだ。

つまり、iPhone発売前の中国では、「その名は知られておらず、周知性はなかった」と判断され、当時からIPHONEの名の財布やブックカバーなどが出回ってきており、これにお墨付きがついた。

アップル社にとっての第一の問題は、2006年といわれるiPhone出願時に皮革の区分で商標出願していなかったこと。さらにいえば、すでに国際的な話題になっていた2007年の時点で、中国国内での周知化という戦略をもたなかったことだ。

ライセンスビジネスに精通したアップル社でさえ、こんなことが起こりうる。一般企業においては、いわずもがなである。

ロイヤリティは 1億円

ところで、日本においてアップル社は「iPhone」のスマホ区分(9類 携帯電話ほか)の商標を保有していない。権利者名は、アイホン株式会社。日本を代表するインターホンメーカーで、高度成長期の昭和29(1954)年に「アイホン」を当時の区分(電気通信機)で出願・登録。アップル社が発売前の2006年にiPhoneを出願したものの特許庁は拒絶。苦肉の策として、登録申請の名義をアイホン社に変更し、アップル社は専用使用権を設定して、ロイヤリティを支払っている。その額は年間およそ1億円だそうだ。

本家iPhoneの日本国内での出荷台数は低迷気味とはいえ、年間1473万台(2015年)。1台当たり約6.79円。さて。これを高いとみるか、安いとみるか…………。

特許業務法人プロテック プリント版ちざいネタ帖 Vol.10 2016/06/30より

「フランク三浦」問題〜パロディは、徹底的に遊ぶべし♪

ネットニュースで、この春注目を集めたのが、スイスの高級時計「フランク ミュラー®」vsパロディ時計「フランク三浦®」の事件。

ミュラー社は「フランク三浦」の商標登録に対し、「“ミュラー”へのただ乗り」だとして無効審判請求を行い、特許庁では登録無効の審決を下したものの審決取消訴訟に至り、4月12日の知財高裁の判決で、フランク三浦側が逆転勝訴した。このポイントとなったのが出所混同のおそれがあるか否か。そして「ただ乗り」(=フリーライド)であるかどうかだった。

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「フランク三浦」はかねてから「謎の天才時計師 フランク三浦」の物語を設定。「『デザイン・ノリ・低価格』を追求したパロディーウォッチ」(三浦一族HPより)とあらかじめアピールし、手描き文字風の「フランク三浦」のロゴも目立つように配置。さらに、5000円前後の「三浦」と100万円超の「ミュラー」では、「混同するとは到底考えられない」という結果となった。

商品のパロディのみならず、モノマネ芸人においても、実は、同じような課題をはらんでいる。モノマネ芸人は、本家タレントの著名度に乗っかっている部分はある。商標の「ただ乗り」では、著名商標の信用を希釈化してしまうという問題が発生するが、明らかに違うものであるという前提があれば、逆に本家の芸を再認識させるきっかけにもなりうる。芸人のモノマネを楽しむ人が、本家と混同して公演に足を運ぶことはまずないだろう。本家が公認していればなおさらというわけだ。

 

大石内蔵助もパロディの産物

 

ところで、手にとった時代小説のなか、芝居の役名に「大星由良之助」の名をみつけた。人形浄瑠璃や歌舞伎の代表的な演目「仮名手本忠臣蔵」で、おなじみの赤穂浪士の討ち入りの物語は、内蔵助は由良之助に。吉良上野介は高師直、浅野内匠頭は塩治判官高定という巧みなパロディ名で描かれている。

 

いうまでもなく、往時の芝居は庶民の最大の娯楽。ストレス解消の妙薬であり、戯作者や興行側は御上の取り締まりを避けるかたちで、相当の用心を以て事件を脚色したらしい。さらに調べてみると、忠臣蔵自体が『太平記』を下敷きにしていることがわかった。赤穗浪士の討ち入り直後から「楠はいま大石になりにけりなほ(名を)も朽ちせぬ忠孝をなす」という狂歌の立札が町中に立ち、大石由良之助(内蔵助)は、楠正成の生まれ変わりだというのである。

 

パロディとは、他作品から要素を借用し、風刺などをまじえて別の作品に引用すること。フランク三浦は自主的に生産終了し、在庫限りで販売終了だそうだ。「どうせ遊ぶなら徹底的に!」という同ブランドのコンセプトにあわなくなったのかも。

 

 

【参考】

三浦一族オンラインショップ(フランク三浦)

特許業務法人プロテック

プリント版ちざいネタ帖 VOL/9 2016/04/28より

 

この手があった! 「希釈化」ならぬ「濃縮化」

2016年3月14日の発売以来 (東日本地区)、コンビニエンスストアで売り切れ続出の「ペヨング ソースやきそば」。ロングセラーの本家「ペヤング ソースやきそば」 とは異なる横長のパッケージながら、まったく同じ印象 のカラーリング、似たような名称⋯⋯⋯。

「誤字?」、「商標権侵害?」など、世間の憶測を呼んでいる。実はこれ、本家ペヤングを主力商品とする“まるか食品株式会社”(群馬県伊勢崎市)が発売した商品。

「ペヨング」は、麺の量を14g減らした廉価版で、「気になる本家との味の違いは食べてみてのお楽しみ!」(まるか食品)だそう。2014年の異物混入事件で全面的製造ラインの見直しを行った同社が、満を持して新発売するセカンドライン商品というわけだ。

ペヨング

本家「ペヤング」は、発売に先立つ2年前に調味料等の区分で商標出願。後に即席そばの麺や野菜ジュースなどの指定商品でも商標を取得している(第1201550号)。 一方の「ペヨング」は、発売直前2015年11月24日に出願。ペヨング発売と前後して、似たようなネーミングの「ペユング」も、商標出願していることがわかった。

さらにあらためて確認してみると、本家「ペヤング」出願の1976年に同時に「ペアング」を出願。現在も商標権を保持していることがわかっている。

ブランド史上初?  商標の濃縮化戦略

「アレンジを加えることなく、直截にアピールを重ねる」。ブランド戦略の王道である。 この王道を歩むものが気をつけねばならないのが普通名称化。例えば、「うどんすき」は老舗うどん店、美々卯の登録商標だが、東京高裁により普通名称化していると判断された。こうした有名な商標について、他人が様々な商品やサービスに使用することで、その商標としての機能を弱め、普通名称化しようとすることを、「商標の希釈化」という。

一方、似たようなネーミングの商標を取得するまるか食品のブランド戦略は、この希釈化の逆をいく「濃縮化」戦略というべきであろう。 異物混入事件からの立ち直りをかけたセカンドライン商品の投入。あえて近い商品に近い名称を与える。これにより商標権の効力を濃くしようとする戦略と見る。

色のついた溶液をシャーレに入れて上から見ても色は薄い。しかし、同じ量の同じ液体を試験管に入れて、上からみれば濃い色に見える。シャーレや試験管は、商品の違い。色のついた液体は商標である。

商品をわずかの違いで差別化し、似た名称をつけることで信用回復を図る「まるか食品」の戦略を商標の濃縮化戦略と見て応援したい。

特許業務法人プロテックプリント版 ちざいネタ帖 VOL.8 2016/3/31より

資料:ペヨング ソースやきそば

 

まいなびニュースから

 

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マイナス金利と知財金融

2016年1月29日、日本銀行は欧米並みのマイナス金利政策の採用を発表。妙薬か劇薬か、はたまた副作用は──と市中は戦々恐々。一方で資金需要の喚起が予測され、なかでも中小企業を対象とした「知財金融」がにわかに注目を集めだした。

知財金融には、(1)特許権など知的財産権を担保とする融資と、(2)特許権などの知的財産権を保有している事実をもとに企業競争力や資金返済力の一部として評価し融資するものの2種がある。このうち(1)はライセンスビジネス等限定的なケース。(2)は知財を活用したビジネス全体を評価する「知財ビジネス評価書」をもとに経営評価するもの。評価は金融機関と提携した第三者機関が行う。

現在、知財ビジネス評価書に取り組んでいる金融機関は、政策金融公庫のほか、東京都民銀行、千葉銀行、愛知銀行など、22行(平成26年度)。特許庁では平成26年度より知財金融促進事業をスタートさせ、知財ビジネス評価書の無料作成や、評価機関(提携作成会社)の育成をするほか、普及啓発のため、融資マニュアルの作成などをすすめている。近い将来、評価制度の拡充等により、地方銀行や信用金庫などにも急速に普及の見込みとか。地方創生のカギとなることも期待されている。

渉外担当がまめに足を運び、事業性の評価をしていた時代はいまやむかし。不動産担保でもなく、かたちのない技術力や知的財産が、資金需要を満たす時代がやってきそうだ。

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たのしく仕事をするため

「時間貯蓄銀行」を設定したファンタジー小説『モモ』(*)を世に問うたドイツの作家ミヒャエル・エンデは、金利につられ時間を銀行に預けることで、逆に時間に追いまくられ、人々が疲弊するさまを描く。

時間は貨幣のアナロジー。児童文学に名を借りて、貨幣経済を痛烈に批判したものだ。彼がその著書『エンデの遺言』のなかで言及した地域通貨の発想は、我が国において地方活性化を目指した地域通貨導入の際に精神的支柱となった。主人公『モモ』の親友、道路掃除夫ペッポの言葉を紹介しよう。

「いちどに全部のことを考えてはいかん、わかるかな? つぎの一歩のことだけ、つぎの一呼吸(いき)のことだけ(中略)を考えるんだ。いつもただつぎのことだけをな。」

「するとたのしくなってくる、これがだいじなんだな、たのしければ仕事がうまくはかどる。こういうふうにやらにゃあだめなんだ。」

知財金融は緒についたばかり。われわれ弁理士・特許事務所は、クライアントに対してつぎの一歩を示し、企業活動を楽しくするお手伝いをするという、活躍の場が見えてくる。

 

*出典

ミヒャエル・エンデ『モモ』(岩波少年文庫127)

(プリント版 ちざいネタ帖 Vol/7 2016/02/23 より)

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マーケット変化と商標ライセンス

インフルエンザなど感染症対策の第一は、うがいと手洗い。発売以来、日本のうがい薬マーケットを牽引してきた「明治 イソジンⓇ うがい薬」が、来る3月末にライセンス解消というニュースが飛び込んできた。

データベースを確認してみると、イソジンⓇの出願は1960年。出願人は米国系製薬会社のムンディフアルマ社。61年に医療用の殺菌消毒薬として明治製菓(当時)が発売し、83年に市販薬を発売。キャラクター「カバくん」も、85年にはテレビCMに登場し、後に図形商標登録している。つまり、「イソジンⓇ」の名称と「カバくん」は30年以上にわたり、ブランドを育ててきたわけだ。それが2016年4月には、明治は、商標「イソジンⓇ」の名称が消え、「明治うがい薬」の名と「カバくん」マークで独自路線を行く。半世紀以上にわたる関係の解消の背景にあるものは、なんだろうか。

 

明治うがい薬

* 図版:株式会社明治プレスリリース2015/12/9より

報道によれば、ムンディフアルマ社は、欧米を中心に慢性腰痛やがんに伴う痛みの治療薬を販売してきたが、昨年から日本を重点地域に定め、積極投資。その一貫として、すでに日本市場に浸透しているイソジンⓇブランドを自社展開することを決め、シオノギ製薬が独占販売する。フェミニンケアなど幅広い商品を計画しており、菓子や乳業など多様な食品を提供している明治よりも、製薬やヘルスケア商品に特化したシオノギに乗り換えたということだろう。

廃棄不徹底がブランドを傷つけかねない状況が頻発している昨今──。明治のイソジン製品が4月以降は市場に流通しないよう、徹底した在庫回収策がとられることが期待される。

高級感がウリでなくなったとき

商標のライセンス解消といえば、「プランタン銀座」が、仏プランタン社との商号・商標契約を2016年末で終了するというニュースが同じころに届いた。プランタン銀座は、1984年、破竹の勢いだった(株)ダイエーが、安売りスーパーの別業態として、おしゃれで高級なイメージを獲得して開業。30年余を経た現在は、読売新聞グループの会社が運営し、ニトリやユニクロも出店する商業施設になっている。ダイエーの変遷はもとより、その時代の目論見は継続できず、いまや高級感あふれるフランスの老舗百貨店「プランタン」とのイメージの齟齬は否めない。契約期間の満了とともに更新に至らなかったのもいたしかたないことだろう。2017年春の新装開業後は、主婦や訪日外国人需要を含めた幅広いターゲットに訴求する予定だそうだ。

歌は世につれ、世は歌につれ⋯⋯⋯⋯。商標やライセンス契約も「世につれ」というわけ。

*プリント版「ちざいネタ帖 VOL.6」(2016/01/25  特許業務法人プロテック発行より)