平等院鳳凰堂のパズル

2019年3月、世界遺産として知られる平等院鳳凰堂を無断で撮影した写真を用いたジグソーパズルを販売したとして、平等院が製造・販売元の(株)やのまんを相手取り、販売停止や在庫処分などを求めて京都地裁に提訴。現在も係争中だ。

やのまんでは、プロ写真家から提供された、ライトアップされた鳳凰堂の画像を300ピースのパズルに使用している。

この事件が、注目されるのは、建築の著作権に関するものであるため。美術性のある建築物は、著作権は発生するものの、撮影禁止となれば風景写真も撮れなくなってしまう。そのため、著作権法46条(公開美術の著作物等の利用)では、建築物は基本的に撮影・利用は自由。SNS投稿、Webサイトへのアップロードも認められている。これは他の著名な建築物などでも同様で、彫像などのオブジェでも、パリのエッフェル塔でも、スカイツリーでも同じこと。ましてや鳳凰堂は平安時代後期天喜元年(1053)という千年近く前に建立されたもの。とうに著作権は切れている。

ただしこれは私的利用に限ってのこと。今回、問題になったのは商用利用である点だ。平等院では、境内で撮影された写真の商用利用を禁止しており、パンフなどにも記載している。では、商用利用の場合どうするかといえば、許諾性になっていることがほとんどだ。これは著作権法ではなく契約上の問題だ。いまやオリジナル画像を使ったポストカードやカレンダーなども少部数から簡単に発注できてしまうが、これを販売するのはNG。誰にも気をつけてほしいところだ。

モナリザはバラバラでもOK

それでは、何が争点なのか──やのまんのホームページなどから「見解の相違」という言葉が浮かび上がってくる。平等院側では「パズルでバラバラにされるのは耐え難い」という宗教的な感情を挙げており、商用利用を安易に許可したと誤解され「社会的評価が低下した」と訴えている。また宗教施設に配慮した一定のルールづくりへの布石にしたいという意図もあるそうだ。一方のやのまんでは、鳳凰堂の図柄は10円硬貨をはじめさまざまな商品に使われ「パブリックドメイン化(共有財産化=知的財産権が発生していないまたは消滅した状態のこと)」しており、社会的評価を損ねることはないと反論している。やのまんといえば1970年代にモナリザ展に先立ち、750ピースのパズルを販売して一斉を風靡した会社なのだ。

法的根拠があいまいな文化財の利用を制限していくべきか、もしくは海外のように国民の共有財産として、施設側が率先して高画質画像を公開し自由利用を認める方向に導くのか──ことの判断は、そう簡単じゃなさそうだ。

特許業務法人プロテック プリント版ちざいネタ帖 Vol.44 2019/10/10より