「鬼滅の刃」主人公の羽織はパッケージ!?

「鬼滅の刃」を知らなくても、コンビニのグッズや子どもたちの手作りマスクなどで、緑と黒の市松模様を見かけたひとは多いのではないだろうか。
「鬼滅の刀(きめつのやいば)」とは、大正時代を舞台に、鬼と化した妹を救う主人公の姿を描く、和風剣戟奇譚。少年ジャンプで掲載後、アニメ化され、少年たちのほかに若い女性フアンも獲得して、全年齢型コンテンツの驚異的ヒットとなっている。
この鬼滅の刀の版元である(株)集英社が、2020年6月24日、登場人物の6種の羽織の柄を商標出願。古典柄でもある地模様の商標出願をめぐって、知的財産の専門家の間でも論議を呼んでいる。

指定商品を確認してみると、9類(電子機器関連)、14類(アクセサリ関連)、16類(文房具関連)、18類(かばん関連)、25類(被服関連)、28類(おもちゃ関連)。
コンビニエンスストアのローソンでは、5〜8月に鬼滅の刃キャンペーンを実施。おにぎりやパン、スイーツなどのパッケージに市松模様や麻の葉模様をほどこしたタイアップ商品を発売したほか、文具類などのグッズの販売、キャンペーンのプレゼントのエコバッグなど、いずれの限定商品も、大変な人気を博している。
この商標出願について、ネット上では「商標ってマークじゃないの? 羽織の柄もマーク?」「日本の伝統柄なのに(権利の独占を目指すなんて)」といった反応が多数SNSに寄せられている。

トレード・ドレスかもしれない

地模様の商標登録に関しては、自他商品識別力を要求する総括規定である商標法第3条1項6号に該当するとして、もともと登録の対象から除外されてきた。地模様に特徴的な部分はなく、「“識別の標識”とはなりえない」というのが基本的な考え方だ。ではなぜ、集英社は商標出願したのだろうか。

実は、地模様の商標にはいくつか先例があるから、ややこしい。例えば伊勢丹のチェック柄(登録第5394671号)やポールスチュアート(登録第5515006号)など。ただし、これらは、拒絶査定不服審判を経て、登録に至った例なのだ。これには、著名であることの証拠提出など相応の立証が必須。つまり一見地模様と思しき外観であったとしても、特定の商品役務に使われてきたことで、地模様ではなく“特徴的な図形と認識”された場合なのである。
このほか、米国など諸外国では、トレード・ドレスという商品の外観やパッケージなどを知的財産として保護する制度もある(国際的基準が定まらず日本では未導入)。集英社としては、10月の映画公開を前に、第三者による登録の可能性の排除を目的したものか、あるいは拒絶査定を覚悟のうえ、議論を呼び込もうとしているのかもしれない。

※拒絶査定不服審判:特許庁により拒絶査定を受けた出願人が不服を申し立てる審判手続。審判官の審理により簡易裁判のような手続きが行われる。

特許業務法人プロテック ちざいネタ帖 Vol.51 2020/09/25より

アマビエと商標登録

疫病退散にご利益があるといわれる妖怪「アマビエ」を(株)電通が商標出願していたことが、特許庁関連のデータベースを通じて判明するやいなやネット上で大炎上。「庶民の慣習を登録して金儲けか」「名称を独占しようとしている」と抗議が殺到。公開からわずか1週間後の2020年7月6日、電通では出願そのものを取り下げた。

アマビエとは「肥後国海中の怪」(京都大学付属図書館所蔵史料)に描かれた妖怪のこと。2月下旬、妖怪掛軸専門店の大蛇堂が「コロナウィルス対策としてアマビエのイラストをみんなで描こう」とSNSで呼びかけ、多くのクリエイターによるアマビエイラスト制作が始まり、さらに3月中旬には水木しげる氏が1984年に描いたアマビエの原画を水木プロダクションがツイッターに投稿。ブームに拍車がかかり、爆発的に知られることに。いまや、御符をはじめ、ぬいぐるみ、菓子など、さまざまな場面でアマビエを見かけるようになってきた。新型コロナウイルス 収束への多くの人たちの願いのシンボルとなっている。

電通の商標出願では、9類(コンピュータ関係)、35類(広告、小売関係)、38類(放送関係)、42類(情報通信系サービス)など、多岐にわたるものだった。電通では、アマビエ という名を使うキャンペーンを計画していたことや(その際に他社が権利を保有していると権利侵害の可能性がある)、「商標の独占的かつ排他的な使用は想定していなかった」と釈明しているものの、消費者の理解は得にくかった。

ミーム化と登録のゆくえ

しかし。電通が取り下げたものの他の企業が商標登録となる可能性は残っている。電通以外でも「アマビエ 」の商標出願は、菓子や酒造メーカー、神社などすでに12件ありいずれも審査中だ(2020年7月10日現在)。

なぜ登録の可能性が残るかといえば、商標登録出願が拒絶される理由のいずれにもあたらないため。妖怪名では、すでに「カッパ寿司」「天狗」のほか、水木プロダクションの「猫娘」や「砂かけ婆」なども登録されている。このほか、神様の名前についても富士重工の「AMATERRAS(アマテラス)」の登録例までもがあるのだ。

ただし——。近年はミーム化(インターネット等を通じて急速に知名度が上がること)されたネーミングに関しては登録が拒絶される例も出てきている。「そだねー」「イナバウアー」「ハンカチ王子」など。アマビエの元絵は江戸時代後期の作品ですでにパブリックドメイン化。厚生労働省でも感染対策のモチーフとしている。さて。特許庁がどのような審査をし登録になるかどうか——。目が離せない。

特許業務法人プロテック ちざいネタ帖 Vol.50 2020/07/28より

コロナ商標と公序良俗

「キミのじまんのかぞくは、コロナ のじまんの社員です」。こんな言葉で締めくくられたメッセージ広告が新聞掲載されたのは6月15日のこと。住設機器メーカー(株)コロナ の小林芳一社長名で掲載されたもので、女性社員の子どもからの「コロナって悪者なの?」「コロナに行って、大丈夫なの?」といった声に真摯に応えたものだ。

新型コロナウイルス感染による緊急事態が世界保健機構(WHO)により宣言されてから4か月。社名が新型コロナウイルスを連想させることから、社員の家族が心ない攻撃的言葉に心を痛めることも数多くあったそうだ。同様にメキシコビールの代名詞「コロナビール」も風評被害を大きく受けて、38%の人がコロナビールの購入を控えているというデータも米国広告代理店により発表されている。

そもそも「コロナ 」とは、原義では王冠を意味するラテン語。英語のクラウンの語源であり、太陽の光冠や太陽や月の周りに見える光輪や暈(かさ)のことをさす。コロナウイルスも、太陽のコロナ を連想させる特徴的な外観形状からこの名が付いたそうだ。
一方、冒頭のコロナ社名は創業者が考案したもので、コロナ放電の色とコンロの青い光が似ていることなどから命名。戦前の1935年に登録した由緒ある商標なのだ(第0264549号)。

名車トヨタ・コロナ

ところで、こうした「コロナ 」に関する国内商標がどれだけ出願・登録されているか検索してみたところ180件あった。WHO発表以後と考えられる2020年出願の商標を確認してみると「コロナストップ」「コロナキラー」「コロナアタック」「コロナブロック」など、ウイルスを意識したネーミングも少なくない。コロナを冠したネーミングが効果をうたうものとして是非を論議する向きもあるが、商標法には、公序良俗に反するものは、商標登録できないというルールがある(商標法第4条1項7号)。公序良俗とは、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある」商標のこと。差別的・他人に不快な印象を与えるような商標のほか、社会公共の利益に反し、道徳観念に反する場合などがこれにあたる。コロナは特定のウイルスだけを指す言葉ではないし、(株)コロナをはじめすでに多数の商標が登録されていることから登録の方向にあると考えられる。

そういえば、1960年代に一世を風靡した国産自動車もコロナだ(第1163385号・現在も権利継続中) 。「明るく親しみのもてるファミリー・カーにふさわしい」とこの名を採用したとか。新型コロナは、トヨタの量産体制の実現やマイカーブームを担った名車でもある。風評被害もコロナ禍も「♪ここらでやめてもいいコロナ~」(自動車ショー歌/小林旭/1964年)。

特許業務法人プロテック ちざいネタ帖 Vol.49 2020/06/24より

商標拳とデザイン経営

最近、YouTubeで話題の「商標拳」をご存知だろうか。模倣かオマージュか——中小企業の社長が、模倣品を製造元する悪徳社長と知的財産を武器にたたかうドラマ仕立てのカンフー風動画だ。ワイヤーアクションやCGを使った本格的もので、エンターテイメント性あふれるたのしい動画になっている。

特許庁のホームページにも、商標拳の特設ページがあり「ビジネスを守る奥義」のキャッチ。おかたい役所イメージからかけ離れた仕上がりになっている。「商標権はビジネスの基本」、「商標権を知らずにビジネスをすることは経営上の大きなリスク」という特許庁のメッセージがダイレクトに伝わってくる。

このほかにもYouTubeには、特許庁によるJPOチャンネルがあり、商標ではニュース番組風の「商標チャンネル全体版」(約40分)をはじめ、音商標や色商標など新しいタイプの商標についてや、地域ブランドなどの解説動画もある。このほか、特許庁発のJPO Channelは、特許や意匠権、また、職務発明制度の概要など、中小・零細企業ならばすぐにでも役立ちそうな、さまざまな動画を展開。今後もさらに充実させていきそうな勢いでもある。

知的財産権は、企業規模にかかわらず、取得できる武器でもある。近年、中小企業を中心に商標をはじめとする知的財産権の出願は増加傾向にあるものの、全体数から見るとまだまだ少なく、ヒット商品の模倣や係争事件などがあとを絶たない。これの解消を目指し、知的財産権の活用をうながすための動画発信というわけだ。

デザイン経営ってなんだろう

ところで、特許庁が率先して、こうした動画作成や発信をはじめた背景には、2018年に経済産業省・特許庁が策定した「デザイン経営宣言」がある。
「デザイン経営」とは、デザインの力をブランドの構築やイノベーションの創出に活用する経営手法のこと。その本質は、人(ユーザー)を中心に考えることで、根本的な課題を発見し、これまでの発想にとらわれない、それでいて実現可能な解決策を、柔軟に反復・改善を繰り返しながら生み出すことだそうだ。デザインとは、メッセージを発信するブランド価値であり、また人々が気づかないニーズを掘り起こしてイノベーションを実現する事業の営みそのものであるという考え方だ。アップルやダイソンを思い浮かべるとわかりやすいかもしれない。

特許庁内においても、デザイン思考を導入することによって、より質の高いサービスが期待できる分野に対してこれを実践すると表明していた。

それが、エンターテイメント性あふれる商標拳につながったのかもしれない。見習いたいところだ。

特許業務法人プロテック プリント版ちざいネタ帖 Vol.48 2020/02/29より

中国に負けた? 無印良品

2019年11月、「無印良品」ブランドで知られる(株)良品計画が中国の現地企業と商標「無印良品」を争ってきた問題で、良品計画が敗訴、約1000万円の支払いを命じる判決がでたというニュースが飛び込んできた。判決は、北京市高級人民法院の二審によるもので、日本の最高裁判所に相当するもの。良品計画は一審でも敗訴しており、この二審判決をもって訴訟は終結。すでに賠償金は支払われているそうだ。無印良品といえば、1980年、量販店の西友や西武百貨店などで販売を開始した、プライベートブランド。2020年2月期の会社計画(予想)では売上高4554億円、海外を含め420店舗にのぼっている。それではなぜ、良品計画は敗訴してしまったのだろうか。

良品計画の「無印良品」の日本国内商標を確認してみると、1982年、無印良品の名入札などのロゴマークを15の区分で出願。後の1993年以降、赤いゴシック体のロゴでの商標出願している。また外国出願も、海外への展開を始めた1993年以降のことだ。今回、係争の焦点となったのは、2001年中国で登録となった海南南華実業貿易の商標「無印良品」。タオルなどを対象とする24類で、後の04年には北京棉田紡績品有限公司に譲渡されていた。一方、良品計画は05年に中国へ進出をはじめる。北京棉田では、上海無印良品を設立し、日本の無印良品そっくりの「無印良品Natural Mill」の展開を始めていたのだ。

パクったもん勝ち?

つまり——良品計画が現地での出願・登録や中国の進出をする以前に、中国で商標「無印良品」が無関係の他者により取得されてしまっていたということ。むろん、日本でのブランド人気を知ってのことだろうし、知的財産権は国ごとの独立の法制度だから、いったん中国商標局によって登録になった商標は、現地ではやむなしだ。ちなみにこうした中国での〝パクったもん勝ち”の商標には、「有田焼」「讃岐うどん」がある。

ところで良品計画では、欧米への進出とともに2016年頃から「MUJI」を前面に押しだしたブランド展開を積極的に行ってきた。MUJIは、中国人の間でも絶大な人気をほこっており、MUJI=(日本発の)本家無印良品という認識が広がっているのが実情らしい。また、中国国内からも「北京棉田は登録商標を返上すべし」という声が挙がっていると聞く。とかく知財意識が低いかのように思われてしまう中国だが、2008年に知的財産を国家戦略に位置付けて以来、着実に実績を挙げてきている。なんといっても知財裁判がインターネット中継されるほど世界一すすんでいるとも言われる。奢れるものは久しからず。知的財産の実績においても中国から目が離せない。

特許業務法人プロテック プリント版ちざいネタ帖 Vol.47 2020/01/30より

パロディと地域ブランド

このところ、地域ブランドのパロディ商品をめぐる知的財産問題が浮上している。最近の話題でいえば、兵庫県の「ONO消しゴム」。小野市観光協会が製造・販売したもので、観光名所をあしらった消しゴムの他に、知名度の高い消しゴム「MONO」にあやかった「ONO」を製作。ケースはあわいブルー・ホワイト・ネイビーの3色ストライプに、ゴシック書体のONOの文字。MONOと似たようなデザインで、いわばシャレを効かせたパロディのつもりらしいが、イベントでの販売をはじめた2019年10月、商標権者の(株)トンボ鉛筆からクレームがついた。

小野市観光協会によれば、消しゴム製造業者から「字体やケースの色を変えれば問題ない。トンボ鉛筆にも確認済み」と説明されていたというが、パロディとはいえ、発売元は許諾をはじめとするコンプライアンスや知的財産管理を直接すべきであったことは、いうまでもない。ただし、この事件は、すみやかに対処され約千個を返品。協会とトンボ鉛筆では「どんなデザインなら許可を出せるか」協議をはじめている。

ちなみに、MONOブランドは、知的財産業界では、色商標第1号として知られる。色彩のみからなる商標の登録には顕著な識別性が必要で、昭和44(1969)年から使用している3色ストライプは周知性の高さが立証された。

高知の財布!

一方、上手なパロディで躍進しているところもある。財布など製造・販売の(株)ブランド高知だ。20代の若者が立ち上げた地域ブランドで、出身地の高知県を盛り上げようと企画。丸みを帯びた漢字の書体「高知」をあしらったデザインの財布を開発した。米国のハイブランド「COACH」と似た読みの「こうち」であることが評判を呼び、お笑い芸人がSNSに投稿するや爆発的ヒットに。さらにパロディ界の勝訴例として名高い「フランク三浦」(フランク・ミューラーのパロディ時計)ともコラボして、活況を呈している。

ONO消しゴムはNGで、高知の財布はなぜOKなのか——。パロディに関わる知的財産関連法は(1)著作権法 (2)商標法 (3)不正競争防止法の3つ。いずれも権利者からの親告が基本になっていることがポイントだ。実は「高知」は2017年に商標出願したが著名商標と混同のおそれがあるなどの理由で拒絶査定を受け、登録に至っていない。が、COACHの方は問題視していないので、OKというわけだ。もちろん“いまのところ”である。

思いついたダジャレで商品化できるかどうか——グレーゾーンも広く、見極めも必要。ぜひご相談ください。

特許業務法人プロテック プリント版ちざいネタ帖 Vol.46 2019/12/11より

まだまだ続く「うんこ」ブーム♪

ここ数年、「うんこ」が人気を博しているのをご存知だろうか。ブームのきっかけとなったのは、2017年に文響社が出版した『うんこ漢字ドリル』。小学校で学ぶ漢字1006字を3つずつ、合計3018の例文にうんこを使うという学年ごとの学習書だ。例えば——「天気(よ)ほうで見たことのないうんこマークが出た」、「ずっと前からうんこがもれる予(かん)がしていました」(3年生版より)等々。シリーズ累計398万部(2019年2月)を突破する大ヒットを更新中だ。実はドリルの大ブレイクに先行して、うんこに着目し事業化をはじめていた企業があった。その名も(株)うんこ。知的財産業界では、2014年に初めてとぐろを巻いたうんこの図形商標(25類被服等・登録第5712612号)を出願した会社として知られる。というのも、出願の際、代理人からは「審査の過程で、登録にならない可能性がある」といわれていたらしい。

これは、商標法の「公序良俗違反」(第4条第1項7号)というルールの解釈をめぐるもの。公序良俗とは、国家・社会の公共の秩序と普遍的道徳を意味し、公序良俗を害する商標として、非道徳的、ひわい、差別的、他人に不快な印象を与える文字や図形などを指している。登録にならなかった例として、殺害を意味する「KILL」や歴史上の人名の「仏陀」「ヒトラー」、国際信義に反する「ヤンキー」などがある。凡例はあるものの、公序良俗違反の概念は抽象的であるし、価値観は時代とともに変遷するため、グレーゾーンも大きい。それが先の代理人の見解であり、また当初は図形商標で出願するという判断だったかもしれない。

おならもOK!

(株)うんこは、もともと安全靴等の卸販売をする(株)のばのばの関連会社で、新業態開拓のため、競合がなかったうんこビジネスへと大きく舵取りをしたそうだ。とぐろマーク登録後の2016年には、「unco」「うんこ」を商標登録。オリジナルTシャやスニーカーなどをオンラインショップで販売するほか、いまや「うんち」や「おなら」など、おしりまわりの商標は全部登録したそうだ。

これ以外にも、2019年3月、面白法人カヤックが、東京お台場と横浜に「うんこミュージアム」をオープン。またドリルの文響社も、うんこ例文やうんこ作家コンテストのほか、うんこ書道展などのイベントも実施。うんこ人気は、複数の業態を巻き込んでさらに広がりをみせている(ちなみに、商標では食品の区分での出願登録はいまのところない)。

ところで、うんこ、と口にしただけで、思わず笑いがこみあげてしまうのは、何も小学生男子に限ったことではない。さて、このテキスト内で、何回うんこを連発したと思いますか?

特許業務法人プロテック プリント版ちざいネタ帖 Vol.45 2019/11/14より

平等院鳳凰堂のパズル

2019年3月、世界遺産として知られる平等院鳳凰堂を無断で撮影した写真を用いたジグソーパズルを販売したとして、平等院が製造・販売元の(株)やのまんを相手取り、販売停止や在庫処分などを求めて京都地裁に提訴。現在も係争中だ。

やのまんでは、プロ写真家から提供された、ライトアップされた鳳凰堂の画像を300ピースのパズルに使用している。

この事件が、注目されるのは、建築の著作権に関するものであるため。美術性のある建築物は、著作権は発生するものの、撮影禁止となれば風景写真も撮れなくなってしまう。そのため、著作権法46条(公開美術の著作物等の利用)では、建築物は基本的に撮影・利用は自由。SNS投稿、Webサイトへのアップロードも認められている。これは他の著名な建築物などでも同様で、彫像などのオブジェでも、パリのエッフェル塔でも、スカイツリーでも同じこと。ましてや鳳凰堂は平安時代後期天喜元年(1053)という千年近く前に建立されたもの。とうに著作権は切れている。

ただしこれは私的利用に限ってのこと。今回、問題になったのは商用利用である点だ。平等院では、境内で撮影された写真の商用利用を禁止しており、パンフなどにも記載している。では、商用利用の場合どうするかといえば、許諾性になっていることがほとんどだ。これは著作権法ではなく契約上の問題だ。いまやオリジナル画像を使ったポストカードやカレンダーなども少部数から簡単に発注できてしまうが、これを販売するのはNG。誰にも気をつけてほしいところだ。

モナリザはバラバラでもOK

それでは、何が争点なのか──やのまんのホームページなどから「見解の相違」という言葉が浮かび上がってくる。平等院側では「パズルでバラバラにされるのは耐え難い」という宗教的な感情を挙げており、商用利用を安易に許可したと誤解され「社会的評価が低下した」と訴えている。また宗教施設に配慮した一定のルールづくりへの布石にしたいという意図もあるそうだ。一方のやのまんでは、鳳凰堂の図柄は10円硬貨をはじめさまざまな商品に使われ「パブリックドメイン化(共有財産化=知的財産権が発生していないまたは消滅した状態のこと)」しており、社会的評価を損ねることはないと反論している。やのまんといえば1970年代にモナリザ展に先立ち、750ピースのパズルを販売して一斉を風靡した会社なのだ。

法的根拠があいまいな文化財の利用を制限していくべきか、もしくは海外のように国民の共有財産として、施設側が率先して高画質画像を公開し自由利用を認める方向に導くのか──ことの判断は、そう簡単じゃなさそうだ。

特許業務法人プロテック プリント版ちざいネタ帖 Vol.44 2019/10/10より

知財のかたまり「空調服®」

酷暑にみまわれた2019年夏。東京オリンピック2020に向けた準備が急ピッチですすむなか、爆発的なヒットを飛ばした商品がある。あちこちの建築工事現場でみかけるモコモコ膨らんだ作業服、「空調服®」。発売以来最大の約130万着を記録したという。空調服とは(株)空調服による「(猛暑対策用)電動ファン内蔵ウエア」のことで、密閉性の高い長袖服の腰のあたりに2基のファンを搭載。服の中に風を送ることで汗を気化させ、気化熱を奪い身体を冷やす仕組みで、人体が本来備えている「生理クーラー理論」に基づくものだ。

同社ホームページによれば、現会長で開発者の市ヶ谷弘司氏は元ソニーのエンジニアで、東南アジアでビル建設現場を眺めているうちに「電力消費量はすごいだろうな」と考え、これが〝空気を涼しくするのではなく、着衣で涼しくすること〟を思い立つきっかけになったとか。生理クーラー理論は、人間には脳を制御装置として皮膚や体温を温度センサーに暑いと感じた際には汗腺から必要量の汗を出し、汗の気化熱で体温をコントロールする生理機能に着目。空調服着用の場合、身体と平行に大量に空気を流すため、汗の完全蒸発=生理クーラーが効いている状態が一般服よりも広く涼しく感じられる。

普通名称化への懸念

気になる知的財産はといえば、1着あたり20ほどの特許技術が使われているといい、現在では、海外を含めたライセンス生産や販売も積極的に行われている。(株)空調服の研究機関である(株)セフト研究所の特許出願件数は、国内特許で約120件、中国やヨーロッパなどへの外国出願も約20件に上っている。ブラウン管関連技術に携わってきた市ヶ谷氏にとっては、元来は専門外の技術だったと考えられるが、ひらめきを形にしてゆく飽くなき探究心と粘り強さ、そして知的財産を重要視してきたことが、今日の繁栄を築いているようで頼もしい。

ところで、「空調服」の名称は(株)空調服の登録商標〔登録第4871177号〕。2004年に(株)セフト研究所名義で出願したもので、空調服を発売した翌年の平成17(2005)年には社名に採用している。現在、出回っている電動ファン内蔵ウエアの4割は、空調服(ライセンス契約者含)以外の製品だそうだ。実際、空調服専門の販売サイト名にも使用されている(許諾やライセンス契約しているのかもしれないが)。商標登録はしていても、すでに普通名称化しつつあるという懸念がないではない。

商標の普通名称化とは、特定の企業が提供する商品・役務を識別する標識としての機能(自他商品役務識別機能・出所表示機能)を有していた名称が、徐々にその機能を消失させ、需要者(エンドユーザーなど)の間で一般名称として認識される現象をいう。人気商品ならではの悩みかもしれない。

特許業務法人プロテック プリント版ちざいネタ帖 Vol.43 2019/09/10より

「KIMONO」と文化の盗用

アメリカのタレント、キム・カーダシアン・ウエストさんが、自身の矯正下着ブランドに「KIMONO(キモノ)」とネーミング。2019年6月に米国においてロゴで商標出願を行い、ドメイン名を取得するなど、事業展開をツイッターなどで大々的に発表するやいなや、米国・日本内外でたちまち炎上してしまった。

日本の伝統的な民族衣装を侮辱するものだという批判の声が噴出し、日本からは、京都市長がブランド名を再考するよう書簡を送付。書簡では着物を「日本人の美意識や精神性、価値観の象徴」と位置づけ、着物文化のユネスコ無形文化遺産への登録を目指す取組を紹介しながら、私的に独占すべきものではないとした。この他、経済産業相をはじめ、和装の業界団体までが声を挙げた。英国ロンドンの博物館のSNSでも、「着物は16世紀から日本で階級や性別を問わずあらゆるひとの主要な衣服となり、いまも日本の文化を象徴する」と説明し、抗議のためのハッシュタグもまたたく間に広がり、欧米メディアにも採り上げられた。一方のカーダシアンさんは、「日本文化における着物の重要性を理解し、尊敬の念を持っている」としながらも、当初は、KIMONOというブランド名を変えるつもりはないとしていた。が、批判の高まりのなかで1週間後には撤回するに至った。炎上商法という説もある。ちなみに、キム・カーダシアンさんの愛犬の名は、「SUSHI(スシ)」。日本文化を理解(?)したうえで、あえてネーミングしたことがわかる。

七輪のタトゥは笑い話に

このところ、とくにファッション業界を中心に「文化の盗用」が問題視されることが多くなっている。例えばメキシコ先住民の伝統的衣装を盗用したといわれたイザベル・マラン(仏)、白人モデルにシーク教徒のターバンを巻いて登場させたグッチ(伊)、メキシコの伝統を称賛する広告キャンペーンに白人女性を起用したディオール(仏)など、ハイブランドも非難の対象になった。文化の盗用は英語の「cultural appropriation」の翻訳で盗むニュアンス以外に私物化の意味がある。力のある文化が力の弱い文化を利用することを意味し、異なる文化の間に力の不均衡が存在する時に起こる。米国の根深い人種差別と、多様性を重視する時代背景の中で、問題がクローズアップされるようになってきた。KIMONOの件では、日本もいまだ差別の対象ということを露呈してしまった。

日本文化の盗用といえば思い出すのが、米国の歌手、アリアナ・グランデが手のひらに描いた「七輪」というタトゥ。ヒット曲タイトル「Seven Rings」のつもりで彫ったものらしいが、日本からは「それ、焼肉焼くやつ(笑)」の反応。批判の声はほとんど挙がらなかったそうだ。

特許業務法人プロテック プリント版ちざいネタ帖 Vol.42 2019/07/30より