アマビエと商標登録

疫病退散にご利益があるといわれる妖怪「アマビエ」を(株)電通が商標出願していたことが、特許庁関連のデータベースを通じて判明するやいなやネット上で大炎上。「庶民の慣習を登録して金儲けか」「名称を独占しようとしている」と抗議が殺到。公開からわずか1週間後の2020年7月6日、電通では出願そのものを取り下げた。

アマビエとは「肥後国海中の怪」(京都大学付属図書館所蔵史料)に描かれた妖怪のこと。2月下旬、妖怪掛軸専門店の大蛇堂が「コロナウィルス対策としてアマビエのイラストをみんなで描こう」とSNSで呼びかけ、多くのクリエイターによるアマビエイラスト制作が始まり、さらに3月中旬には水木しげる氏が1984年に描いたアマビエの原画を水木プロダクションがツイッターに投稿。ブームに拍車がかかり、爆発的に知られることに。いまや、御符をはじめ、ぬいぐるみ、菓子など、さまざまな場面でアマビエを見かけるようになってきた。新型コロナウイルス 収束への多くの人たちの願いのシンボルとなっている。

電通の商標出願では、9類(コンピュータ関係)、35類(広告、小売関係)、38類(放送関係)、42類(情報通信系サービス)など、多岐にわたるものだった。電通では、アマビエ という名を使うキャンペーンを計画していたことや(その際に他社が権利を保有していると権利侵害の可能性がある)、「商標の独占的かつ排他的な使用は想定していなかった」と釈明しているものの、消費者の理解は得にくかった。

ミーム化と登録のゆくえ

しかし。電通が取り下げたものの他の企業が商標登録となる可能性は残っている。電通以外でも「アマビエ 」の商標出願は、菓子や酒造メーカー、神社などすでに12件ありいずれも審査中だ(2020年7月10日現在)。

なぜ登録の可能性が残るかといえば、商標登録出願が拒絶される理由のいずれにもあたらないため。妖怪名では、すでに「カッパ寿司」「天狗」のほか、水木プロダクションの「猫娘」や「砂かけ婆」なども登録されている。このほか、神様の名前についても富士重工の「AMATERRAS(アマテラス)」の登録例までもがあるのだ。

ただし——。近年はミーム化(インターネット等を通じて急速に知名度が上がること)されたネーミングに関しては登録が拒絶される例も出てきている。「そだねー」「イナバウアー」「ハンカチ王子」など。アマビエの元絵は江戸時代後期の作品ですでにパブリックドメイン化。厚生労働省でも感染対策のモチーフとしている。さて。特許庁がどのような審査をし登録になるかどうか——。目が離せない。

特許業務法人プロテック ちざいネタ帖 Vol.50 2020/07/28より