スピリッツなきウルトラマン

タクシーに乗ったら、ウルトラの父の堂々たる姿をキービジュアルにした広告。育毛の父ということらしい。1966年にテレビ放映されて以来、半世紀を超える永遠のヒーローシリーズだから、中高年をターゲットにしたマーケティング。なるほど拡大路線か……と合点したのは、4月に話題を集めたニュースを見ていたからかもしれない。

4月のニュースとは、円谷プロが米国ウルトラマン海外利用権訴訟で勝訴したというもの。1976年タイ人実業家と当時円谷プロの代表を務めていた円谷皐(のぼる)氏との間で交わされたとされる日本をのぞく海外での独占的利用許諾の覚書の〝真偽〟が問われたもの。この件はこれ以前に日本・タイ・中国の裁判所で20年以上も争ってきており判決も二転三転したという経緯がある。

今回の米国訴訟が注目されたのは「ディスカバリー(証拠開示手続)」と呼ばれる証拠収集手段が採用されたため。ディスカバリーとは、訴訟手続の中で相手方当事者の支配領域下にある文書や証人等について開示を求めることを認めた極めて強力なもの。証拠資料はトラック1杯分ともいわれる膨大さで、厳格性や公明正大さにおいては定評があり、円谷プロ側は「今後はさらにウルトラマン作品の積極的な海外展開を進めて行く所存です」と、絶対の自信を覗かせている。が、ことはそう簡単ではないらしい。ディスカバリーは米国の裁判手続であって、証拠能力をいかに評価するかは各国の裁判所に委ねられるからだ。

キャラクタービジネスのさきがけ

なぜここまでの混乱を招いてしまったのだろうか。半世紀以上の歴史の中のことではあるが、特撮の神様といわれた創業者円谷英二のこだわりは、そのまま高制作費体質であったことが挙げられるかもしれない。これを補ってきたのが怪獣などソフトビニール人形などライセンシングビジネスの収益であり、経営の両輪だった。つまり円谷プロは我が国のキャラクター&ライセンスビジネスのさきがけ的企業なのだ。資金面をみても、当初は東宝など制作との結びつきが大きかったが、次第に玩具メーカーやCMコンテンツ会社などの支援を受け、その結果、制作の方はコマーシャル的な制約を受けざるを得ない。現在では、円谷一族は円谷プロの経営から排除され、バンダイとパチンコ関連企業の傘下となっている。

円谷プロの代表を務めたこともある英二氏の孫の円谷英明氏は先の判決に際して「制作者は作品にメッセージを込めてつくるもの。(現在の円谷プロには)スピリッツがない」と批判している。つまりライセンシングビジネスにおける許諾の核心は「スピリッツ」にあるということ。肝に命じたい。

*参考:『ウルトラマンが泣いている 円谷プロの失敗』(円谷英明著・講談社現代新書)

特許業務法人プロテック プリント版ちざいネタ帖 Vol.31 2018/07/17より