文化の盗用と知的財産

2018年末、米ディズニーに対し、映画『ライオン・キング』の挿入歌タイトルになっているスワヒリ語の「ハクナ・マタタ」(スワヒリ語で「問題なし」「心配なし」の意味)の米国商標登録の取り消しを求めるインターネット署名に、およそ11万人の署名が集まったというニュースが報じられた。

署名活動は、『ライオン・キング(実写リメイク版)』の2019年公開に先立ち行われているもので、ハクナ・マタタという言葉は、タンザニアやケニア、ウガンダ、ルワンダ、ブルンジ、モザンビーク、コンゴ民主共和国などスワヒリ語圏に住む人々のほとんどが使用していると主張。つまり、「文化の盗用」にあたるとして、世界中から賛同者が集まった。

「文化の盗用」という言葉は、英語の「cultural appropriation(カルチャル・アプロプリエイション)」が訳されたもの。盗むというニュアンス以外に「私物化」の意味がある。

ある種のコミュニティにとって文化や宗教的な背景のある伝統を、縁もゆかりもない人が、相手の許可なく勝手に使うことを意味している。文化的背景を理解せずにトレンドとしてあおるような行動は、人種差別であるとして、グローバル社会の進展とともに批判の対象となってきた。

例えばグアテマラでは、先住民族マヤ族の儀式に用いられる伝統的模様の織物を、マヤ族以外の者が土産物として製造・販売。マヤ族は憤慨し「観光客を呼び込むために私たちは餌として使われてきました。しかも私たちの衣装、文化、工芸品のもたらすお金は先住民の私たちの元へは戻ってきません」(Global Voiceより)と訴え、グアテマラ政府に対し、マヤ族の織物に特許権を与えることを主張している。

ジャングル大帝と似てる?

このほかにも、オーストラリア出身のモデル ミランダ・カーが、着物風衣装で『VOGUE JAPAN』の表紙を飾った際には批判を受けたが、これは大半が海外からの反響だったそうだ。一方、日本の観光地で外国人がレンタル着物で撮影した画像をSNSに投稿しても批判の対象にはならない。つまり、文化の盗用は、背景やそこにいたる文脈が重要視され、さらにいえば社会におけるマジョリティとマイノリティの位置づけなど、関係性が複雑に絡んで判断材料になってくるわけだ。

ところで、冒頭に挙げた映画『ライオン・キング』、もともと手塚治虫の『ジャングル大帝』のパクリではないかと以前から噂されてきた。キャラクターやプロット、構図など多くの酷似点があるというのだ。虫プロの反応は、「(ディズニーファンだった故手塚治虫が知ったら)むしろ光栄だと喜んだはずだ」とコメントしたとか。日本人らしい反応だったかもしれない。

特許業務法人プロテック プリント版ちざいネタ帖 Vol.37 2019/01/25より

商標を横取りされた場合、どうすればいい?

シンガポールで展開している飲食ブランド『ティラミスヒーロー』を日本の会社が横取りして、そっくり真似した店舗を日本でオープンしたことが話題となっています。



(ゴゴ通信より引用)

表参道のティラミス店がシンガポールの店の盗用? 日本の盗用のせいで本家が名前を変える羽目に

シンガポールの『ティラミスヒーロー』に酷似した『HERO’s』経営会社「特許庁により認められたもの 弊社独自の商品」

この会社は、シンガポールで使用されているロゴ「THE TIRAMISU HERO」と酷似する商標を出願し、商標登録を得ています。そして、その使用権を堂々と主張しています。シンガポールのブランド保有者は、日本では『ティラミスヒーロー』ブランドを使用できなくなってしまったと嘆いています。
(ゴゴ通信より引用)

この会社、過去にも同様のブランド乗っ取り行為をしていたようです。

ティラミスヒーローパクリの株式会社「gram」、そもそも「gram」を乗っ取っていたと話題に!

大阪の人気パンケーキ店だった「gram」のロゴに酷似するロゴを商標登録。ブランドを乗っ取られたお店は、「bran cafe」と店名を変えて営業を続けましたが、その後閉店に追い込まれたようです。

一方、「gram」は全国に店舗を展開しています。

 

さらに、続々とブランド乗っ取り目的と思しき商標出願が行われています。

話題のティラミス専門店「HERO’S」→ 関連会社が申請中の他の商標を見てみた結果…

 

このような商標制度の悪用によるブランド乗っ取りに遭ってしまった場合、諦めてブランドを手放すしかないのでしょうか?

打つ手はあります。

商標法には、このような剽窃的に出願された商標は登録を拒絶する、あるいは登録を取り消す・無効にするという規定があるからです(商標法第4条第1項第15号,第19号)。

商標出願中の場合

商標出願は拒絶されるべきものであるということを特許庁に情報提供します。資料を添えた刊行物提出書を提出します。要するに、出願を審査する審査官へのタレコミです。上記のようなケースでは、当事者間の事情を審査官は知り得ないので、タレコミが功を奏する可能性が高いです。

商標登録されてしまった(直後の)場合

商標登録されてしまったとしても、その処分が不当であることを争うことができます。商標公報発行から2ヶ月以内に、商標登録に対する異議申立を行うことができます。登録が不当であることの理由を書いた異議申立書を提出します。これにより、特許庁では登録が妥当であったか否かを審理し、妥当でなかったと判断された場合、商標登録は取消となります(最初から商標権がなかったことになる)。

商標登録されてから時間が経っている場合

商標公報発行から2ヶ月以上経過している場合には、特許庁に対して、その商標登録についての無効審判を請求することができます。登録が無効にされるべき理由を書いた審判請求書を提出します。これにより、特許庁では登録に無効理由があるか否かを審理し、無効理由があると判断された場合、商標登録は無効となります(最初から商標権がなかったことになる)。

異議申立、無効審判が成功しなかった場合

特許庁の判断に不服があるとして、知財高裁に訴訟を提起することができます。裁判所で、特許庁の判断が間違いだったという判決が下ると、特許庁は異議申立、無効審判の審理をやり直すことになります。

商標、ブランドの剽窃行為に対しては、放置せず、屈せず、戦いましょう!