うなぎの町のブランディング

感動のリオ・オリンピック閉幕とともに、2020東京五輪への新たなステージが始まった。

建築・土木や環境技術等、技術分野の進展による特許出願のほか、関連グッズの商標出願など、知的財産業界においても、未来の日本への礎(いしずえ)をかたちづくるチャンスであるに違いない。

そんななかでいっそう注目されるのが「地域ブランド」だ。クールジャパンのかけ声のもと、「地域創生」も活発化。農業・水産業の六次産業化の推進もあり、地域おこしの場面では、「ブランディング」という言葉をよく耳にする。そんななか成功事例として注目されているのが、浜松市の「うなぎいも」だ。

topファンド

 

 

大正時代から続く造園業者が、剪定等の廃棄物を利用した堆肥の製造販売を発展させ、名物のうなぎの頭や骨などの残渣(ざんさ)を用いた堆肥を製造。以前は浜松市内にあるうなぎ専門店や加工業者が有料で処分していたものを無料で回収し、草木由来の堆肥とブレンド。この堆肥で育てたさつまいもをブランド化したプロジェクトだ。

生鮮のさつまいもを栽培・販売するほか、地元ホテルの協力を得て、うなぎいもプリンを商品開発。さらにプリンに用いる鶏卵についても、うなぎの残渣をエサにするなど養鶏農家を巻き込んだ。プリンの製造過程のさつまいものペースト(加工品)も、地域の製菓店に販売し、クッキー等の焼き菓子、うなぎいもアイス、うなぎいもシェイクなど、数多くの「うなぎいも」スイーツを誕生させた。さらに、耕作放棄地等を活用したうなぎいも栽培も始まり、農業振興の一助となっているそうだ。

 

ブランド戦略のカナメは商標

 

現在では、うなぎいも生産組合のほか、加工業者、販売業者からなる協同組合を発足。関連商品は、42商品、商品販売額約5億円だという(2015年)。市中には「うなぎいもカフェ」があるほか、ゆるキャラ「うなも」も人気。販売促進や植付体験、焼芋試食会などのイベントも盛ん。海外への紹介も始めた。浜松といえば「うなぎ」──まさに、地域資源を掘り起こし、官民一体となった取組みは、地域ブランディングのお手本でもあるだろう。

うなもゆるきゃら

 

商標「うなぎいも」は、いもやいもの加工品、菓子及びパン、レトルトなどの加工食品、日本酒などの区分で、プロジェクトの中心企業、(有)コスモグリーン庭好が保有している。「うなぎいもブランド認定」制度をつくり、ロゴやキャラクターの使用許諾を行っているそうだ。しかし、詳細に商標データベースを調べてみると、ゆるキャラ「うなも」については未出願。もちろん外国出願もまだだ。派生商品「うなぎ米」は別の個人の権利となっている。つまり、プロジェクトの広がりに対して商標戦略が追いついていないかのようにみえる。

実状と未来予測──われわれ知的財産を業とする者の真価が問われている。

*特許業務法人プロテックちざいネタ帖VOL.13(2016/08/31)より

*参考:うなぎいもOFFICIAL WEBSITE

http://www.unagiimo.comhttp

 

〝悪意〟に負けるな!商標登録

このところ「悪意」という言葉をよくみかける。といっても知的財産やそのニュースの世界のおはなし。具体的には「悪意の商標出願」というものだ。

当初、悪意の商標出願として問題になったのは、中国企業などが、諸外国の地域の特産品の名称や人気キャラクターなどの名称を無断で商標登録していることをさした。例を挙げれば、八女茶・宮崎牛などの地域産品をはじめ、クレヨンしんちゃんのキャラクター、備前焼や輪島塗といった伝統工芸品のほか、ヨネックスや無印良品のロゴも現地で商標登録され、粗悪品が出回るなど被害は甚大。

特許庁では2015年6月『悪意の商標出願に関する報告書』を発刊。これは2014年末に東京で開催された日米欧中韓の商標担当五庁による会合における各国の制度・運用に関する報告書で、つまり商標やブランドの重要性が広く一般に浸透し、また商品・サービスがグローバル化するにつれ、こうした悪意が跳梁跋扈する事態に。各国でも対応に追われているものの、策は後手に回りがちだ。

ちなみに中国で訴訟を起こすには500万円以上の費用がかかり中小企業には大きな負担。そこで特許庁では海外での知財侵害対策事業の一環として訴訟費用補助制度を開始した(〜2018年度まで)。 悪意に対してどう防御し対抗していくか──領海侵犯と同様、性善説では対抗できなさそうだ。

全出願の1割超!悪質な商標出願

さらに──国内の商標出願シーンでも〝悪意〟が問題として浮上してきた。「STAP細胞はあります」「自撮り」「歩きスマホ」「保育園落ちた」など、誰もが知る言葉をある特定の会社が商標出願。他人の商標を先取りするようなその出願数は平成25年以降年間1万件以上にのぼり、平成27年には、年間10万件前後といわれる全出願数の1割以上を占めた。このほかに、政党名の「民進党」や群馬県で開館予定だった文化複合施設の愛称「太田BITO」も、「BITO」 が出願されるなど、影響は多方面に渡る。これがTwitterの商標botで話題を集めるようになり、困惑が広がっている。

特許庁では2016年5月17日、「自らの商標を他人に商標登録出願されている皆さまへ(ご注意)」と題し、「ご自身の商標登録を断念する等の対応をされることのないようご注意ください」と異例のコメントを発表。これらの出願のほとんどが、特許庁へ支払う出願手数料(印紙代 ともいう)の支払いのない、手続上瑕疵のある出願で、 出願の日から一定期間は要するものの出願却下処分を行っていることを説明している。トラブルを避けたいがために正当な出願者が登録を断念する必要はまったくない。

断固たる態度で臨めば、おのずと解決の道は見えてくるはず。気になったらまずはご相談ください。

特許業務法人プロテック プリント版ちざいネタ帖 Vol.12 2016/08/05より