商標拳とデザイン経営

最近、YouTubeで話題の「商標拳」をご存知だろうか。模倣かオマージュか——中小企業の社長が、模倣品を製造元する悪徳社長と知的財産を武器にたたかうドラマ仕立てのカンフー風動画だ。ワイヤーアクションやCGを使った本格的もので、エンターテイメント性あふれるたのしい動画になっている。

特許庁のホームページにも、商標拳の特設ページがあり「ビジネスを守る奥義」のキャッチ。おかたい役所イメージからかけ離れた仕上がりになっている。「商標権はビジネスの基本」、「商標権を知らずにビジネスをすることは経営上の大きなリスク」という特許庁のメッセージがダイレクトに伝わってくる。

このほかにもYouTubeには、特許庁によるJPOチャンネルがあり、商標ではニュース番組風の「商標チャンネル全体版」(約40分)をはじめ、音商標や色商標など新しいタイプの商標についてや、地域ブランドなどの解説動画もある。このほか、特許庁発のJPO Channelは、特許や意匠権、また、職務発明制度の概要など、中小・零細企業ならばすぐにでも役立ちそうな、さまざまな動画を展開。今後もさらに充実させていきそうな勢いでもある。

知的財産権は、企業規模にかかわらず、取得できる武器でもある。近年、中小企業を中心に商標をはじめとする知的財産権の出願は増加傾向にあるものの、全体数から見るとまだまだ少なく、ヒット商品の模倣や係争事件などがあとを絶たない。これの解消を目指し、知的財産権の活用をうながすための動画発信というわけだ。

デザイン経営ってなんだろう

ところで、特許庁が率先して、こうした動画作成や発信をはじめた背景には、2018年に経済産業省・特許庁が策定した「デザイン経営宣言」がある。
「デザイン経営」とは、デザインの力をブランドの構築やイノベーションの創出に活用する経営手法のこと。その本質は、人(ユーザー)を中心に考えることで、根本的な課題を発見し、これまでの発想にとらわれない、それでいて実現可能な解決策を、柔軟に反復・改善を繰り返しながら生み出すことだそうだ。デザインとは、メッセージを発信するブランド価値であり、また人々が気づかないニーズを掘り起こしてイノベーションを実現する事業の営みそのものであるという考え方だ。アップルやダイソンを思い浮かべるとわかりやすいかもしれない。

特許庁内においても、デザイン思考を導入することによって、より質の高いサービスが期待できる分野に対してこれを実践すると表明していた。

それが、エンターテイメント性あふれる商標拳につながったのかもしれない。見習いたいところだ。

特許業務法人プロテック プリント版ちざいネタ帖 Vol.48 2020/02/29より