「KIMONO」と文化の盗用

アメリカのタレント、キム・カーダシアン・ウエストさんが、自身の矯正下着ブランドに「KIMONO(キモノ)」とネーミング。2019年6月に米国においてロゴで商標出願を行い、ドメイン名を取得するなど、事業展開をツイッターなどで大々的に発表するやいなや、米国・日本内外でたちまち炎上してしまった。

日本の伝統的な民族衣装を侮辱するものだという批判の声が噴出し、日本からは、京都市長がブランド名を再考するよう書簡を送付。書簡では着物を「日本人の美意識や精神性、価値観の象徴」と位置づけ、着物文化のユネスコ無形文化遺産への登録を目指す取組を紹介しながら、私的に独占すべきものではないとした。この他、経済産業相をはじめ、和装の業界団体までが声を挙げた。英国ロンドンの博物館のSNSでも、「着物は16世紀から日本で階級や性別を問わずあらゆるひとの主要な衣服となり、いまも日本の文化を象徴する」と説明し、抗議のためのハッシュタグもまたたく間に広がり、欧米メディアにも採り上げられた。一方のカーダシアンさんは、「日本文化における着物の重要性を理解し、尊敬の念を持っている」としながらも、当初は、KIMONOというブランド名を変えるつもりはないとしていた。が、批判の高まりのなかで1週間後には撤回するに至った。炎上商法という説もある。ちなみに、キム・カーダシアンさんの愛犬の名は、「SUSHI(スシ)」。日本文化を理解(?)したうえで、あえてネーミングしたことがわかる。

七輪のタトゥは笑い話に

このところ、とくにファッション業界を中心に「文化の盗用」が問題視されることが多くなっている。例えばメキシコ先住民の伝統的衣装を盗用したといわれたイザベル・マラン(仏)、白人モデルにシーク教徒のターバンを巻いて登場させたグッチ(伊)、メキシコの伝統を称賛する広告キャンペーンに白人女性を起用したディオール(仏)など、ハイブランドも非難の対象になった。文化の盗用は英語の「cultural appropriation」の翻訳で盗むニュアンス以外に私物化の意味がある。力のある文化が力の弱い文化を利用することを意味し、異なる文化の間に力の不均衡が存在する時に起こる。米国の根深い人種差別と、多様性を重視する時代背景の中で、問題がクローズアップされるようになってきた。KIMONOの件では、日本もいまだ差別の対象ということを露呈してしまった。

日本文化の盗用といえば思い出すのが、米国の歌手、アリアナ・グランデが手のひらに描いた「七輪」というタトゥ。ヒット曲タイトル「Seven Rings」のつもりで彫ったものらしいが、日本からは「それ、焼肉焼くやつ(笑)」の反応。批判の声はほとんど挙がらなかったそうだ。

特許業務法人プロテック プリント版ちざいネタ帖 Vol.42 2019/07/30より

アディダスの3本線と識別力

我がオフィスのある渋谷の街を消しゴムのMONOデザインのバスが走った6月下旬。アディダスの3本線が、EU裁判所により商標登録を認められなかったというニュース(ロイター)が流れてきた。

アディダスでは2014年、同じ幅の3本の平行線が等間隔に配される「図形商標」を、衣料、靴、帽子などの区分で商標登録。これに対しベルギーのシュー・ブランディング・ヨーロッパが無効審判を申し立てた係争事件だ。

アディダスの保有する欧州連合の図形商標(EUTMM012442166号)を確認してみると、「本マークは商品に任意の向きで付された3本の等間隔・等幅のストライプである」と記載され、縦にモノクロで直線3本が並んでいるだけ。つまり、どの部位につけようが、どの向きにしようがアディダスが権利をもつという、非常に権利範囲の広い商標だった。このほか、アディダスの3本線の商標は、台湾企業など複数の国で係争の対象になっている。商標ではもっとも重要視される「識別力」の観点からみると、普通の模様と区別がつきにくくシンプルすぎるとでもいおうか。EU裁に際し、アディダスではEU域内5カ国内のデータを提出したが認められなかった。また、アディダスは他にもスニーカーやスポーツウエアの左袖など特定の場所に特定の向きで3本線をつける図形商標登録している。

識別力をいっそう強固に

ところで、冒頭に挙げたMONO消しゴムデザイン。おなじみの青・白・黒のトリコロール&ストライプは社内デザイナーによるオリジナル作品だ。

われわれ知的財産業界では、このMONOカラーといえば、色商標登録第一号(登録第5930334)として知られている。色商標(色からのみなる商標)とは、2015年4月1日から出願が開始された新しいタイプの商標制度で、形状によらず特定の色だけで特定企業が独占できる非常に強い権利だ。そのため、一般消費者にどれだけ浸透しているか、認知されているかが登録の要件で、ハードルも高い。

MONO消しゴムのデザインは、50周年の節目にあたる今年7月5日、歴代のMONOデザイン5種をセットにした「モノカラー誕生50周年記念セット」(5個入り税別600円)を発売。ピンバッヂのおまけつきだ。SNSで話題を呼んだラッピングバスをはじめ、Webサイトなどでは「これであなたもMONO知りキャンペーン」を大々的に実施し、同デザインのモノリュック、モノスニーカー、モノTシャツをプレゼントしている。

色商標や図形商標の観点からみると、いかに消費者にそれが浸透しているかの「識別力」がカナメ。各種のキャンペーンも、識別力をいっそう強固なものにしようする企業姿勢がかいま見える。

特許業務法人プロテック プリント版ちざいネタ帖 Vol.41 2019/07/09より