「ぴえん」出願の背景

年末年始に話題を集める流行語大賞。2020年は「3密」「アマビエ」など新型コロナウイルス関連が上位を占める一方、ネットの世界で注目を集めているのが「ぴえん」。「ぴえん」は、泣きたい様子をあらわすオノマトペ(擬態語)で、目をうるませた絵文字も流行中。「2020上半期インスタ流行語大賞」、三省堂辞書を編む人が選ぶ「今年の新語2020」でも流行語部門の1位に選ばれた。

この「ぴえん」が、アパレル会社により商標出願されていることが特許庁のデータベースで11月に公表されるやいなや「独占していいのか」「もう使えないの?」とSNS上で物議をかもすことに。結論からいえば—— (1)登録にならない可能性が高い(2)仮に登録になったとしても、出願区分でのビジネスを行うのでなければ、問題はない。

実は「ぴえん」は、この出願以前に、おもちゃなどを指定商品に出願した例があり、これについて特許庁より11月に拒絶査定が出、審査中なのだ。これは「何人かの業務に係る商品又は役務であるかを認識することができない商標(商標法第3条第1項第6号)」に該当すると判断されたため、同様の経過を辿ることが想定できるのだ(2020年12月15日現在)。また、そもそも出願人であるアパレル会社では「独占的・排他的使用は想定していない」と表明している。

ネット通販が商標登録を加速

電通の「アマビエ」、集英社の地模様(鬼滅の刃)など、このところ「独占を目的にしない」商標出願が目立つようになってきた。なぜこうしたことが起きているのか——。

実は、インターネットショッピングモールなどで模倣品が販売されていた場合、個別の出店者ばかりでなく、サイトの運営会社が損害賠償など法的責任を負う場合があるため。各ショッピングモール運営会社などでは、これを回避するため、知的財産体制を強化する傾向にあるのだ。

例えば、楽天市場では、(商標権等)の権利者侵害窓口を設定。通報に対応する仕組みをとっている。一方、アマゾンでは、出店者にブランド登録を推奨し、事実上、商品登録の際に、商標登録(商標出願中も可)を求めるまでになっている。

今回の「ぴえん」を出願したアパレル会社でも、量販店を顧客としており、“卸売先や取引先に迷惑をかけないため”としている。また商品化についても権利確定後を予定しているという。

こうした独占や排他を目的としない商標出願は、「独占的な使用権を与えることにより業務上の信用の維持を図って産業の発展に寄与するとともに需要者の利益を保護する」という商標の目的(商標法第一条一項)とは、結果としてねじれ現象を起こしているようにも見える。これからの議論を待ちたい。

特許業務法人プロテック ちざいネタ帖 Vol.52 2020/12/22より