吉本の「面白い恋人」はなぜ生き残ったのか──

少し前のお話──。
2011年11月、北海道銘菓として知られる菓子「白い恋人」の製造・販売元の石屋製菓(株)が、パッケージもネーミングも酷似した「面白い恋人」(みたらし味のゴーフレット)を製造・販売する吉本興業(株)他を相手どり、商標権侵害および不正競争防止法を根拠とする商品の販売禁止および破棄を求める訴訟を提起。1億2000万円の損害賠償を請求していた。ところが、2013年2月には、和解成立のニュースがネットに踊ることに。吉本興業は「面白い恋人」のパッケージ図柄を変更、販売を関西6府県に限定することになった。

つまり…。石屋製菓の商標「白い恋人」(30類・菓子及びパン)に、「面」を付加しただけのネーミング、図案変更したといっても、白とブルーを基調としたパッケージはそのまま。石屋製菓が提示していた損害賠償を一銭も払うことなく、引き続き関西方面で製造・販売され続けることになった。

「和解」なので、双方納得のうえであることは間違いない。けれども、どうみても石屋製菓側が大きく譲歩した内容にみえてしまう。日ごろ「商標権は、企業規模も問わない強力な権利であり(事業の)武器」と言い続けている商標担当としては、(吉本フアンではあるけれど)もやもやが残る。消費者の目でみれば、面白ければ手に取りたくなってしまう。どうみてもパロディで、お土産を渡したときに、「くすっ」と笑ってもらえることが、商品価値。吉本側はその価値を手放さずにすんだということだろう。

この事件の場合、商標権侵害では非類似の可能性もあるが、同時に不正競争防止法で争われてお り、混同の可能性があると判断された。不正競争防止法は、営業秘密侵害や原産地偽装、コピー 商品の販売などを規制するもので、商標のように一律判断ではなく、ケースバイケース。裁判所もパロディ、つまり「しゃれ」を理解したうえで、地域限定などの和解 勧告に至ったと考えられる。

ちなみに、うちの特許事務所にも、商標権の侵害についての相談は日常的にやってくる。使用をやめさせればいいのか、損害賠償を請求するのか、はたまた敵対せずにライセンス契約をしライセンス料を受け取る方もあるのか…等々。ケースバイケースであり、落としどころを見つけるのが我々のしごとでもある。

もしもうちの特許事務所が石屋製菓の代理人であったなら──菓子は石屋製菓で製造するOEMにし、商標権に関してもライセンスを供与することを提案していたかもしれない。共存や和解のかたちは一様ではないのだ。

尚、吉本興業ではこの訴訟に先立ち、2010年に「面白い恋人」を商標出願(商願2010-66954)していたが、「白い恋人」と出所混同のおそれがあるとして特許庁により拒絶査定がくだされている。

特許業務法人プロテック プリント版ちざいネタ帖 Vol.2 2015/09/01より