ブランド農産物の知的財産

2020年に向けインバウンド戦略が多方面で本格化している。日本の食文化や食材も例外ではない。とくに将来にわたるインバウンド増大のほか、食材や農産物の輸出についても成長分野としても期待。平成28年輸出実績は7502億円、平成31年には1兆円に達する見込みなのだ(資料=農林水産省)。そうなると気になるのが模倣や技術流出の問題。もちろん知的財産も無縁ではない。

農産物等を権利保護する方法には、特許庁管轄の商標や地域団体商標、特許制度のほか、農林水産省管轄の地理的表示保護制度がある。また新たに創作した植物の品種は、種苗法に基づき、農林水産省に出願して品種登録する制度がある。登録されると育成者のみが独占的に生産販売することができる。特許では、その品種の育成方法やDNAについても保護が可能。現実にその品種栽培が実現していなくても特許化できるという特長があるのだ。

また、新たな品種が農林水産省に登録されると、登録された品種名と同じまたはそれに類似する名称については、商標登録にならないというルールがある(商標法第4条1項14号)。輸出となれば、外国での権利化も必要となってくる。つまり農産物の権利保護には、複数の制度があり、この使い分けや戦略が重要になってくるのだ。

とちおとめは商標じゃない

例えば、イチゴの「とちおとめ」は、品種名と同名称であるため、商標登録されない。とちおとめの種を購入して栽培し誰もが、とちおとめの名称で販売することができる。一方の人気ブランド「あまおう」はといえば、品種登録は「福岡S6号」とする一方、全国農業組合連合会(JA全農)名で、「あまおう」を商標登録(第4615573号他)。更新により永続的にブランド価値を高めようという意図がみえる。韓国でも権利化されており、今後は諸外国への登録を広げていく可能性がある。

こうした地域ブランド農産物の活発化を背景に、農林水産省では、輸出力強化を目的に積極的支援策を講じるようになってきた。例えば、平成28年度よりはじまった「植物品種等海外流出防止総合対策事業」。海外品種登録出願経費支援を実施(29年度は6月15日公募終了)。具体的には、1件の申請につき200万円をめどに、国内外における出願申請費等のほか、翻訳や通信、運搬費などの経費を対象に2分の1の補助率で支援している。

これらの相談については、都道府県の「知財総合支援窓口」が担当。従来からの地域団体商標・商標・特許出願に関わる相談のほか、従来は農政局で扱ってきた地理的表示種苗法に関わる相談についても、連携して受け付ける態勢をとるようになってきた。

もちろん私どもでも、相談にのっている。気になる方はご一報ください。

特許業務法人プロテック プリント版ちざいネタ帖 Vol.22 2017/06/08より

ベッカム家の商標戦略

イギリスを代表する元サッカー選手、デヴィット・ベッカム。妻でタレント出身のヴィクトリアや子どもたちともども、世界的に注目されるセレブファミリーだが、ヴィクトリアが5歳の愛娘の名前「ハーパー」を商標登録したと話題だ。

英国地元紙によれば、すでに長男のブルックリン、次男ロメオ、三男クルーズの名前を2016年に商標登録。デヴィット自身は2000年に、ヴィクトリアは2002年にすでに商標登録されており、これで家族全員の名前が登録されたのだそうだ。

タレント活動をする分においては、その名前は、パブリシティ権という著作権の一種で保護され商標出願の必要はないから、今後、子どもたちの名前を冠したブランド開発など、何らかのかたちで事業化を考えているのだろう。知的財産をなりわいとする者としては、気になるのが、その出願内容。名前がどんな出願内容なのか、調べてみた。

商標の名称は「HARPER BECKHAM」。出願区分は、3類=化粧品・香料、せっけん、9類=電気製品・プログラム、16類=印刷物、18類=かばん・傘、25類=服・靴、28類=玩具のほか、41類=教育・イベント・スポーツの7つの区分。今後、玩具や子ども服などのブランド展開のほか、音楽や映画、TVなどのコンテンツ名に娘の名前を冠して事業化するのではないかという予測ができる。

 

権利は各国に及ばない

 

しかしながら、ハタからみると「?」な部分もないわけではない。この出願そのものが、欧州連合知財財産庁への出願登録(単一の出願でEU加盟国すべてに自動的に権利が発生)である点。イギリスがEU離脱となれば、各国での権利はどうなっていくのか。もちろん、米国や日本などEU加盟国以外ではいまのところ出願も登録もされていないのがなんとも不思議なところ(2017年4月末現在)。もし、あなたがその名称で事業化を考えているなら、まだ間に合うってこと。

ちなみに商標の国際出願については、マドリッド・プロトコル(標章の国際登録に関するマドリッド協定の議定書=通称マドプロ)という国際登録制度がある。これは、本国で出願・登録されている商標を基礎として、指定締約国へ権利保護を拡張することができる制度。外国商標の一元管理が可能であるほか、現地代理人への費用が節約できることなど、メリットも大きい。加盟国数は98ヵ国(2017年3月現在)。アジア地域での加盟は未だ少ないものの今後も増加することが期待されている。

商標の国際出願については助成金もある。詳しくは、どうぞお尋ねください。

*特許業務法人プロテック プリント版『ちざいネタ帖 Vol.21』(2017/05/8)より

地域ブランドも特許の時代に

政府がすすめる地方創世の波にのり、全国各地で地域のあらたな名産品開発が活発化している。地域産品といえば、「地域ブランディング」や「地域団体商標」といった言葉が先行して聞こえてくるが、農林水産物のブランドでは、実際には、農林水産省が担当する「地理的表示保護制度」や種苗の「育成者権」と、特許庁が担当する商標・意匠・特許の双方が関係し、地域ブランドの推進にはそれぞれの知的財産保護や戦略が必要になってくる。

そんななか、特許庁と農林水産省が協力し、平成28年10月から、各都道府県に設置している知的財産総合支援窓口[=(独)工業所有権情報・研修館が所管]に於いて、地理的表示保護制度や種苗の育成者権についても相談受付をスタート。制度や所轄省庁の壁を超えた知的財産サービスが始まっている。

また最近の傾向として挙げられるのが、特許の取得だ。田辺市とJA紀南は、インフルエンザウイルスを抑制する梅酢ポリフェノールを共同出願。和歌山大学食農総合研究所の協力で実現したもので、いったん拒絶査定になったものの、不服審判で審判官面接して登録に持ち込んだそうだ(特許第6049533号)。請求項1では 「 梅酢ポリフェノールを有効成分として含み、クエン酸を含まない抗ウイルス剤」 と非常にシンプルで広い権利範囲。 地域の名産品で健康増進効果もありとなれば、商品価値は非常に高くなりそうだ。

 

食品の用途特許に注目

 

こうした健康食品の特許取得の背景になっているのが、2016年4月に運用が開始された食品の用途特許に関する審査基準の改定(緩和)だ。生鮮食品を除く機能性表示食品やトクホなどの加工食品が対象で、従来、用途限定の記載として認められなかったものが認められるようになった。 例えば「成分Aを有効成分とする二日酔い防止用茶飲料」 「成分Bを有効成分とする歯周病予防用グレープフルーツジュース」 など、有効成分の発見に新規性があれば特許となるのだ。

さらに──田辺市・JA紀南では、和歌山信愛女子短期大学に研究協力をあおぎ、介護食用に“種も皮もない梅干し” を開発し製法特許を出願中。食事意欲を増進させ、唾液量がふえることで口腔内を清潔に保つことにつながるのだそうだ。

JA紀南ではこのほかにも近畿大学や明石酒造(株)、宮崎県などとそれぞれに食品の特許を共同出願している。共同出願というタッグや地域研究機関との連携など、目的ごとのコンソーシアム(共同事業体)体制が見えてくる。ライセンス提供となればその仕組みづくりや運用も必要。コーディネータの存在もいっそう重要になってくるにちがいない。

 

  • 特許業務法人プロテック:プリント版『ちざいネタ帖』(2017/04/03)より

 

 

キャラクターとコスプレ考

1985年の発売以来、史上最も影響力のあるゲームとして知られる「スーパーマリオブラザース」。発売元の任天堂(株)は、社長メッセージにおいて「『任天堂IP(知的財産)に触れる人口を拡大する』ことに注力してゆく」と述べているように、知的財産経営の先端をいく企業として知られている。

その任天堂が、2月末、公道カートのレンタルサービス会社[(株)マリカー]を相手どり、不正競争行為及び著作権侵害行為の差止及び損害の賠償を求める訴訟を東京地方裁判所に提起したと発表した。

都心でカートを見かけたことのある人たちの反応は、「あれって、任天堂がやっているか、ライセンスじゃないの?」というもの。実際、マリカーの声明では、複数の弁護士・弁理士に相談した上で侵害行為に当たらないと判断したことを表明。また、任天堂の許可なく模造された衣装を販売・レンタルしている悪質業者に対し、任天堂の担当者と協議・情報交換を行っていたことが明かされている。

決着は裁判の行方を待つしかないが、法的にみればゲームの著作権をもつ任天堂の主張はおおむね認められる可能性があるだろう。ただしこの係争が著作権侵害というよりは、「不正競争行為」に力点が置かれていることに留意する必要がある。

任天堂が問題視しているのは(1)マリオカートの略称であるマリカーという標章を会社名として使用していることに加え、(2)マリオ等の著名なキャラクターのコスチュームを貸与した上、そのコスチュームが写った画像や映像を当社の許諾を得ることなく宣伝、営業に利用していることなのだ。

コスプレの投稿にご用心

公道カートレンタルは外国人旅行客の人気が高く、Instagramや旅行情報サイトへの投稿等が急増。マリカーではこれを公式サイトやSNSに投稿し、任天堂はこれが営業主の混同や顧客吸引力を発生させている可能性が大きいとしたわけだ。

そうなると気になるのが、町にあふれるコスプレ。
一般にキャラクターの衣装は、キャラクター全体の複製とはいえないため、著作物の侵害には当たらないと考えるのが一般的。ただし、企業などが営利目的で衣装の製造販売をする場合には商品化権のライセンス対象となるし、コスプレイイベントやコミケなどで多数の人に見せるために製作をした場合や、コスプレイヤーが有料モデルとして活動する場合には、私的使用など適用除外に当たらず、許諾が必要になってくる。さらにいえば、コスプレ画像をSNS等に投稿すると法的には「複製物の目的外使用等」(著作権法第49条)に当たると考えられる。現状では著作権は親告罪だから問題が大きくなっていないだけ。実態からみればグレーゾーンも多い。なんともきゅうくつなのである。

特許業務法人プロテック プリント版ちざいネタ帖 Vol.19 2017/03/09より

商標王トランプ政策のこれから

 

トランプ米大統領の就任に伴い、米国内及び周辺諸国はもとより、外交政策や世界経済の動向が注視される昨今──。

われわれ知的財産業界にとっては、なんといっても注目されるのが米国のTPP(環太平洋パートナーシップ)離脱の行方だ。著作権法など知的財産関連改正法案は、TPPが日本国について効力を生じる日が施行日とされるが、12ヵ国すべてが国内手続きを終えるか、12ヵ国のGDPの85%以上を占める少なくとも6ヵ国が手続きを終えることが要件で、米国のGDPはTPP加盟国の6割を占めるため、TPPが発効する可能性は実質的になくなってしまう。

またオバマ政権下での米国特許商標庁の長官は、元グーグル社の特許弁護士だったが、シリコンバレーと何かと反りの悪いトランプ政権下では、医療・化学系特許弁護士へのチェンジもうわさされている。

とはいえ、共和党の政策(2016年)では、「知的財産を保護することは国家安全保障問題のひとつ」と明記されているほか、(特に中国など)「侵害者に対する強い措置」が謳われている。発明家を叔父にもつトランプ氏は、特許政策に強い関心をもっているといわれる。矛盾が指摘されがちなトランプ氏の政策であるものの、知的財産においても攻めと守りのバランスが課題になってくるにちがいない。

 

選挙スローガンも商標に

 

2017年1月初旬に届いた米国特許取得ランキング(2016年)では、米国企業が約3万3000件(全体の41%)と最多であるものの、日本企業が約2万3000件(同28%)、韓国企業が約1万2000件(同15%)。企業別では1位は米IBMで、日本企業ではキヤノン、ソニー、東芝、トヨタ自動車、パナソニックIPマネジメントなど8社が、トップ25にランクインしている。アメリカファースト政策下ではどうなっていくのか、まったく未知数でもある。

ところで、ビジネスマンでもあるトランプ氏は、個人名義で「TRUMP」「TRUMP TOWERS」など320件の商標を出願・登録し、すでにマネタイズ(収益化)に結びつけているそうだ。選挙スローガン「MAKE AMERICA GREAT AGAIN」(アメリカを再び偉大に)も、80年にレーガンが使いはじめた言葉だが、米国で商標登録(登録第5020556号)。Tシャツなど選挙グッズのほかに、政治運動にかかるサービス等の区分でも権利取得している。

一方、中国では、トランプ氏と関係のない企業が商標「TRUMP」を登録しているそうだ。トランプ氏のキャラクターを活かして、中国の模倣品、冒認出願にどこまで強い態度で臨んでいくか──われわれも当分トランプ氏から目が離せそうにない。

 

  • 特許業務法人プロテック プリント版ちざいネタ帖 18 2017/2/7より

 

 

広告効果は絶大。ステーキの特許出願

近年、飲食店やネットショップなど、店名を商標登録するケースがふえてきた。飲食店の知的財産権といえば、「鳥貴族」vs「鳥二郎」の商標トラブルが記憶に新しいところ。

うちで代理人をつとめる飲食店の商標では、例えば繁華街でよく見かける「やってます」看板(第5154790号 (株)ジャックポットプランニング)がある。お酒や被服の区分でも権利取得しており、オリジナル商品やユニフォームにも活用。町には商標権侵害になりそうな看板があふれているものの、同社は権利も主張せず、また係争するつもりもない。社長によれば、商標登録は「最初にはじめたのはうちだよ!」という矜持のようなものだそうだ。

ところで、商標が主流の飲食店業界にあって、注目されているのが、ステーキの特許だ。

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「いきなりステーキ」を展開する(株)ペッパーフードサービスでは、2014年「ステーキの提供システム」を特許出願。補正の後、2016年6月に登録になった(特許第5946491号)。特許の範囲を確認してみると「お客様を立食形式のテーブルに案内するステップとお客様からステーキの量を伺うステップ、伺ったステーキの量を肉のブロックからカットするステップ、カットした肉を焼くステップ、焼いた肉をお客様のテーブルまで運ぶステップまでをステーキの提供システム」(プレスリリースより)だとか。これのどこが特許なのか素人にはわかりにくいが、補正書類には「お客様が案内したテーブル番号が記載された札と、上記お客様の要望に応じてカットした肉を計量する計算機と、上記お客様の要望に応じてカットした肉を他のお客様のものと区別する印とを具えることを特徴とする、ステーキの提供システム」なのだそうだ。

 

肉加工の方法が先輩特許

 

つまり特許的には、ものやサービスの組み合わせがシステムであり「新規性・進歩性」があるということ。この特許がいきなり!ステーキの営業活動に意味があるかどうかは神のみぞ知る、といったところだろうか。しかしメニューに「特許取得!」の文字が躍っていたら、思わず注文したくなるのが人間の性。広告効果は絶大といえるだろう。

ちなみにもう1軒、下町のステーキ店「レストランカタヤマ」【(有)片山商店】のほうが、ステーキの特許としては先輩格。牛モモ肉の一部である「らんいち」を独自の加工方法するもの(1988年特許第2808253号)。低価格で味はよいものの、筋が多くて固い「らんいち」を5年の歳月をかけてカット法を編み出したものだとか。

ローストビーフ丼に、立ち食いステーキ⋯⋯⋯⋯肉ブームはまだまだ続く気配。ぜひほかのレストランでもあらたな発想で特許出願を。もちろんご用命くださいませ。

 

*特許業務法人プロテック プリント版ちざいネタ帖vol/17(2017/1/1発行)より

 

  • 参考

(株)ペッパーフードサービス プレスリリース(2016/08/02)

レストランカタヤマ【カタヤマの秘密】

 

 

 

メイドイン・フランスの鰹節

世界が注目する日本の食文化。2013年には、「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録された。評価された特徴は、(1)多様で新鮮な食材とその持ち味の尊重、(2)健康的な食生活を支える栄養バランス、(3)自然の美しさや季節のうつろいの表現、(4)正月などの年中行事との密接な関わり──の4点。いわば、自然と共生する日本人の気質や習わしが世界的な評価対象となった。和食の味の根幹をなすのは、昆布や鰹節などを用いる「出汁(だし)」。かつては、ジャパニーズ・スープと呼ばれていたが、いまや「Dashi」や「Umami」という言葉が欧米の市民のあいだにも浸透するほどだ。

ところが、2015年7月、世界最大の食のイベント「ミラノ博覧会」において問題が起きた。会期中最大のイベント「ジャパンディ」レセプションにおいて、鰹節がEUの厳しい食品規制により日本から持ち込めないことが判明。日本政府は特例措置を働きかけていたものの、会場のスッテリーネ宮殿を指定していなかったために起きた“事件”だった。

ところで、鰹節の生産量日本一といえば、鹿児島県枕崎市。300年以上の歴史と伝統技術を誇り、日本の老舗料理店などで使われてきており、知名度はあるものの、販売とは結びつかず、他との差別化を図るため、2010年、「枕崎鰹節」(第5332076号・枕崎水産加工業協同組合)を地域団体商標として登録。国内では地域ブランドの成功例として知られているが、さらに2014年には、マドリッドプロトコル(標章の国際登録)により、全97か国で出願・登録。世界ブランドとして躍進する準備を重ねていたことがわかる。

逆転の発想でフランスに工場

和食ブームが広がるなかで起きたミラノ博覧会事件──枕崎水産加工業協同組合では、輸入がだめなら現地生産と、逆転の発想で、出資企業を募り、枕崎フランス鰹節を設立。2016年8月には、フランスのブルターニュ地方の港町、コンカルノーに鰹節工場をオープンさせた。コンカルノーは水産加工の町で、鰹もインド洋産のものが入手できる。そもそも伝統的ないぶしの製法の過程ででるベンゾピレン等が欧州では発がん性物質とされているが、このEU規制をクリアする製法を編み出し、「日本の鰹節にかなり近い味を出せた」とか。フル生産ともなれば、1日200本程度の鰹節生産が可能で、フランス国内はもちろん、ヨーロッパ圏の和食店や食材店に販売する。これまで旨み調味料や製法が違う中国産を使っていた料理店も、本格的な和食を提供できるようになるわけだ。ホンモノの出汁文化を広めることに、地域ブランドが寄与していると思うと、ちょっとうれしい。

特許業務法人プロテック プリント版ちざいネタ帖 Vol.16 2016/12/06より

ティファニー・ブルーの手帳

秋も深まると、書店・文具店の店頭には、色も大きさもデザインも多様な手帳が多数平積みされる。これも初冬の風物詩のひとつだろう。そんななか、女性たちの注目を集めているのが、ティファニー・ブルーの洒落たダイアリー。米国の宝飾品ブランドTIFFANY&CO製で、発売と同時に売切れ必至の人気商品だそうだ。

われわれの知財業界では、ティファニー・ブルーといえば、色商標(色彩のみからなる商標)制度を思い浮かべる。我が国では2015年度より、音商標・位置商標などとともに新しいタイプの商標として制度スタート。先行して制度をもつ米国の色商標登録例(米国商標登録第2416795他2件)としてティファニー・ブルーが挙げられていたからだ。

「ジュエリーでこの色といえば、どのブランド?」ときけば、ほとんどの女性たちが正答する。この識別性が登録のカギというわけだ。

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ティファニー・ブルーは、コマドリの卵の色に由来するティファニー社のコーポレートカラーで、米国の色商標登録では、宝飾品など取扱品目の区分で、ペーパーバック、ボックス、巾着(ジュエリーを入れる布製小袋)を登録している。日本国内での権利関係はどうかと調査してみたところ、「TIFFANY BLUE」のロゴは国際登録されているものの、色彩商標では、まだ出願されていないようだ。というのも、日本の色彩商標は、制度スタートしたものの、いまだ登録例がないのが実状。469件すべてが審査期間中となっている(2016年10月末現在)。識別力ばつぐんのティファニー社でさえも、日本の色商標制度の行方を様子見しているのかもしれない。

 

コーポレートカラーを徹底させる

 

では、ティファニー社は、世界でどんなカラー戦略をとっているのかといえば、ロゴや標準文字の商標の他に、スカーフやジュエリーの箱、布製巾着を「立体商標」として色付きの図柄で国際商標登録している。立体商標とは、立体的な形状からなる商標のことで、日本では、カーネル・サンダース立像(日本ケンタッキー・フライド・チキン株式会社)や動く蟹看板(株式会社かに道楽)などが有名。なるほど──ブランド&イメージ戦略に長けたティファニー社ならではだ。

また同社ではパッケージやペーパーバック、グッズ類のほか、モデル撮影の際のバックカラー、白とティファニー・ブルーのツートンカラーを基調にしたパンフレット類やホームページ、ブティック店内インテリアに至るまで、カラー戦略を徹底させている。われわれは、そこを見習うべきだといえるだろう。

 

特許業務法人プロテック プリント版ちざいネタ帖 VOL.14 2016/11/01より。

 

 

ヴィジュアル系バンド名の商標公売

2016年9月中旬、ロックバンド「黒夢」の商標権が、東京国税局によりYAHOO!官公庁オークションにかけられていることが報じられた。黒夢といえば、インディーズの世界では名古屋2大巨頭といわれたヴィジュアル系バンド。CD総売り上げも約531万枚。2009年に解散したものの、2010年からはスポット的に活動を再開している。

報道によれば、ヴォーカルの清春が代表を務めていた(有)フルフェイスレコードの法人税滞納により商標権が差し押さえられ、インターネット公売にかけられたもの。オークションを確認してみると「黒夢」「KUROYUME」など4商標がせり売りされ、落札価格合計は140万9000円にのぼった。

この商標権、詳細に見てみると、活動停止宣言後の2007年に「黒夢(呼称=クロユメ、コクム)」(第5106735)を貴金属(第14類)及び被服及び履物(第25類)で出願の後、翌年に同名称をレコード・音楽ファイル等(第9類)や音楽の演奏(第41類)のほか、食器類(第21類)や喫煙用具(第34類)など、10の区分に拡充して出願。つまり、いったん休業宣言したものの、グッズ販売を含めて再起をはかろうとした心意気が見てとれる。

知的財産権は質権設定もできる

芸能人など有名人の芸名や肖像には、パブリシティ権と呼ばれる人格権のもとにあり、今後のライブ活動など普通に用いられる状況で黒夢を名乗ること自体は、実は問題ない。

しかしながら、黒夢と記載したCDやTシャツ、グッズ等の制作・販売に関しては、商標権侵害になる⋯⋯というのが、知的財産法上の原則でもある。

(有)フルフェイスレコードの現社長佐々木氏は、弁護士に一任して対応を進めている旨声明を発表し、落札者からの買い取りを希望しているそうだ。

芸名のパブリシティ権と商標権の関係については、本名で活動し、いったん芸能活動を休止していたアイドルタレント加護亜依が、前事務所で名前を商標登録されていたため、新事務所に移籍するにあたり障壁になった例もある。解釈があいまいな部分もあり、商標権と芸名をめぐるトラブルは、近年いっそう増える一方。ご自身で商標権を取得しておいたほうが安全⋯⋯とアドバイスするほかない。

ところで、今回黒夢が大きな話題になったのは、商標権が国税局の差押の対象であるということだろう。商標権に限らず、特許権など知的財産権(無体財産権)は、質権設定や差押の対象。ただし評価額の設定や、特許の場合は使用権など、価額算定もひとすじ縄にはいかず、実際には課題も少なくない。

黒夢の公売開始価格をみても、商標取得実費程度を設定したかのようにみえる。東京国税庁のオークションにおいても、知的財産権を公売にかけるのは稀なケース。まだまだ売れる、欲しいひとがいるに違いない(債権回収可能と思われる)──著名なバンド&商標なればこそ、ということだったろう。

 

*特許業務法人プロテックちざいネタ帖VOL.14(2016/10/05)より

 

*参考:クロユメが含まれる商標(J-Plat Pat)

 

 

うなぎの町のブランディング

感動のリオ・オリンピック閉幕とともに、2020東京五輪への新たなステージが始まった。

建築・土木や環境技術等、技術分野の進展による特許出願のほか、関連グッズの商標出願など、知的財産業界においても、未来の日本への礎(いしずえ)をかたちづくるチャンスであるに違いない。

そんななかでいっそう注目されるのが「地域ブランド」だ。クールジャパンのかけ声のもと、「地域創生」も活発化。農業・水産業の六次産業化の推進もあり、地域おこしの場面では、「ブランディング」という言葉をよく耳にする。そんななか成功事例として注目されているのが、浜松市の「うなぎいも」だ。

topファンド

 

 

大正時代から続く造園業者が、剪定等の廃棄物を利用した堆肥の製造販売を発展させ、名物のうなぎの頭や骨などの残渣(ざんさ)を用いた堆肥を製造。以前は浜松市内にあるうなぎ専門店や加工業者が有料で処分していたものを無料で回収し、草木由来の堆肥とブレンド。この堆肥で育てたさつまいもをブランド化したプロジェクトだ。

生鮮のさつまいもを栽培・販売するほか、地元ホテルの協力を得て、うなぎいもプリンを商品開発。さらにプリンに用いる鶏卵についても、うなぎの残渣をエサにするなど養鶏農家を巻き込んだ。プリンの製造過程のさつまいものペースト(加工品)も、地域の製菓店に販売し、クッキー等の焼き菓子、うなぎいもアイス、うなぎいもシェイクなど、数多くの「うなぎいも」スイーツを誕生させた。さらに、耕作放棄地等を活用したうなぎいも栽培も始まり、農業振興の一助となっているそうだ。

 

ブランド戦略のカナメは商標

 

現在では、うなぎいも生産組合のほか、加工業者、販売業者からなる協同組合を発足。関連商品は、42商品、商品販売額約5億円だという(2015年)。市中には「うなぎいもカフェ」があるほか、ゆるキャラ「うなも」も人気。販売促進や植付体験、焼芋試食会などのイベントも盛ん。海外への紹介も始めた。浜松といえば「うなぎ」──まさに、地域資源を掘り起こし、官民一体となった取組みは、地域ブランディングのお手本でもあるだろう。

うなもゆるきゃら

 

商標「うなぎいも」は、いもやいもの加工品、菓子及びパン、レトルトなどの加工食品、日本酒などの区分で、プロジェクトの中心企業、(有)コスモグリーン庭好が保有している。「うなぎいもブランド認定」制度をつくり、ロゴやキャラクターの使用許諾を行っているそうだ。しかし、詳細に商標データベースを調べてみると、ゆるキャラ「うなも」については未出願。もちろん外国出願もまだだ。派生商品「うなぎ米」は別の個人の権利となっている。つまり、プロジェクトの広がりに対して商標戦略が追いついていないかのようにみえる。

実状と未来予測──われわれ知的財産を業とする者の真価が問われている。

*特許業務法人プロテックちざいネタ帖VOL.13(2016/08/31)より

*参考:うなぎいもOFFICIAL WEBSITE

http://www.unagiimo.comhttp