Tシャツデザインと商標

2021年6月、ロックミュージシャン氷室京介氏の偽Tシャツを販売したとして、警視庁は会社員の男を商標法違反で逮捕というニュースがかけめぐった。男は、氷室氏の所属事務所が商標権をもつ「KYOSUKE HIMURO」のロゴに酷似したマークを付けたTシャツなどのグッズを製作・販売。もともと氷室氏の熱狂的なフアンで、ホームページなどを通じて仲間に販売。フアン同士の懇親会費用などに宛てていたらしい。

これは、たとえ悪意がなかったとしても、「販売目的」であれば商標権侵害として厳罰がくだるという典型例。商標権侵害行為は「10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金が課せられる(商標法第78条)」。またスポーツ用品メーカーのロゴのパロディもあとをたたないが、これらは商標権のもつ「宣伝広告機能を許可なく使用している」などと裁判で判断されてきている。

オリジナルTシャツはデータさえ持ち込めば1枚からでもつくれる。が、オリジナルTシャツ会社では、持ち込まれたデータやできあがった製品に関する商標権・著作権・肖像権などには責任はもたないと明記しているケースが大半だ。フリマサイトやネットオークションだとしても、販売してはならない、とキモに命じておこう。

なおみTシャツのスローガン

ところで、Tシャツといえば、昨今世界中で注目を集めているのがスローガン入り、つまり「ステートメントファッション」だ。ファッションリーダーとしても注目されるテニス界の女王、大坂なおみの「BLM(Black Lives Matter: ブラックライブズマター)」は記憶に新しいところ。主義や主張、権利や立場などのメッセージを服に託すことは“自分らしさ”を表現する最高のツールというわけだ。

こうしたスローガンを商標登録の観点でみると、「スローガンやキャッチコピーには一般的には識別性がない(商品や役務との関係で商標として認識されない)」として、日本国内、海外に関わらず、登録にはならないというのが原則だ。言い換えれば、原則には例外もあるということ。国内例では「がんばれ!ニッポン!」「ファイト一発」「自然と健康を科学する」などは登録になっている。

「BLM」や「Black Lives Matter」「I CAN’T BREATHE」も、米国や英国などで多数商標出願され、あるビジネスマンは非営利団体を計画し、第三者による使用に対してはロイヤルティ料金を請求、活動の原資にしていきたいと主張しているという。

一方スポーツウエアブランド各社では、BLMスローガン入りTシャツを積極展開。こちらはスローガンは商標外という認識に基づいているといえそう。商標は独占使用権であり登録はことの善悪とは別のところに制度がある。行方を見守りたい。

特許業務法人プロテック ちざいネタ帖 Vol.55 2021/06/21より