そっくりコメダ。改築して和解

おしぼりやコーヒーをテーブルまで店員が運んでくるフルサービス、家庭にいるようなインテリアで人気の「珈琲所 コメダ珈琲店」(株式会社コメダ)。セルフサービス型カフェの出店が頭打ちといわれるなかで、この10年で2倍以上の店舗数を達成(739店舗2017年2月現在)、全国津々浦々ですっかりおなじみの喫茶店となっている。

そんなコメダ珈琲に、和歌山県の外観も内装そっくりの「マサキ珈琲中島本店」(株式会社ミノスケ)に対し(株)コメダは申し立てを行い、2017年12月には、東京地方裁判所により使用差止と損害賠償を求める仮処分命令が発令。本案訴訟の審理の行方が注目されていたが、この7月5日、マサキ珈琲が全面的に改築し、和解したことがニュースで伝えられた。報道発表によれば、仮処分決定後、ミノスケは異議を申し立てることなく店舗を一時休業。改装して現在は営業を続けているそうだ。

今回の係争の法的根拠となっているのが、不正競争防止法であることに留意する必要がある。製造業やIT企業であれば技術やビジネスモデルの特許等でカバーできるが、飲食店の場合は、店名の商標登録が主で、「いきなり!ステーキ」のサービス提供システムや「ふわとろたまごのオムレツ(容器入りオムレツ様食品)」(特許第4457997号/カナエフーズ)のレシピ等、特許例はあるものの、一般的にはハードルが高い。不正競争防止法では競業秩序の維持を目的とする一般法としての位置づけから、外観や内装、制服等にも、混同や誤認を生じる範囲が及び、損害賠償や使用差止の対象になったわけだ。

 

モーニングまでそっくり!

 

係争の経緯について仮処分命令をみると、(株)ミノスケは(株)コメダのフランチャイズに加盟申請をしていたが、諸般の事情で加盟がかなわなかった。その後、ミノスケが開店した「マサキ珈琲」は、コメダ珈琲の郊外型店舗に似たログハウス風外観やウッディなインテリア、食器デザインのほか、コメダ珈琲で人気のモーニング、デニッシュパンのシロノワールなどのメニュー内容も酷似。さらにいえば、メニューデザインのレイアウトまでがそっくりというものだった。

(株)コメダでは、係争中の2016年2月、郊外型店舗の外観デザインを立体商標出願し5月に登録になった(登録第5867027号)。コメダ珈琲のフランチャイズでは、開業資金の多くが建設費に費やされるというが、脱退の際に建築物のデザインがどう扱われていくのかは、少々気になるところでもある。

余談だが、(株)ミノスケはもともとゲーム会社で、男性デュオのコブクロの所属事務所でもあるそうだ。

 

特許業務法人プロテック プリント版ちざいネタ帖 Vol.24 2017/08/04より

 

[参考]

(株)コメダホールディングス:仮処分命令の発令に関するお知らせ(平成28年12月27日 )

広告効果は絶大。ステーキの特許出願

近年、飲食店やネットショップなど、店名を商標登録するケースがふえてきた。飲食店の知的財産権といえば、「鳥貴族」vs「鳥二郎」の商標トラブルが記憶に新しいところ。

うちで代理人をつとめる飲食店の商標では、例えば繁華街でよく見かける「やってます」看板(第5154790号 (株)ジャックポットプランニング)がある。お酒や被服の区分でも権利取得しており、オリジナル商品やユニフォームにも活用。町には商標権侵害になりそうな看板があふれているものの、同社は権利も主張せず、また係争するつもりもない。社長によれば、商標登録は「最初にはじめたのはうちだよ!」という矜持のようなものだそうだ。

ところで、商標が主流の飲食店業界にあって、注目されているのが、ステーキの特許だ。

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「いきなりステーキ」を展開する(株)ペッパーフードサービスでは、2014年「ステーキの提供システム」を特許出願。補正の後、2016年6月に登録になった(特許第5946491号)。特許の範囲を確認してみると「お客様を立食形式のテーブルに案内するステップとお客様からステーキの量を伺うステップ、伺ったステーキの量を肉のブロックからカットするステップ、カットした肉を焼くステップ、焼いた肉をお客様のテーブルまで運ぶステップまでをステーキの提供システム」(プレスリリースより)だとか。これのどこが特許なのか素人にはわかりにくいが、補正書類には「お客様が案内したテーブル番号が記載された札と、上記お客様の要望に応じてカットした肉を計量する計算機と、上記お客様の要望に応じてカットした肉を他のお客様のものと区別する印とを具えることを特徴とする、ステーキの提供システム」なのだそうだ。

 

肉加工の方法が先輩特許

 

つまり特許的には、ものやサービスの組み合わせがシステムであり「新規性・進歩性」があるということ。この特許がいきなり!ステーキの営業活動に意味があるかどうかは神のみぞ知る、といったところだろうか。しかしメニューに「特許取得!」の文字が躍っていたら、思わず注文したくなるのが人間の性。広告効果は絶大といえるだろう。

ちなみにもう1軒、下町のステーキ店「レストランカタヤマ」【(有)片山商店】のほうが、ステーキの特許としては先輩格。牛モモ肉の一部である「らんいち」を独自の加工方法するもの(1988年特許第2808253号)。低価格で味はよいものの、筋が多くて固い「らんいち」を5年の歳月をかけてカット法を編み出したものだとか。

ローストビーフ丼に、立ち食いステーキ⋯⋯⋯⋯肉ブームはまだまだ続く気配。ぜひほかのレストランでもあらたな発想で特許出願を。もちろんご用命くださいませ。

 

*特許業務法人プロテック プリント版ちざいネタ帖vol/17(2017/1/1発行)より

 

  • 参考

(株)ペッパーフードサービス プレスリリース(2016/08/02)

レストランカタヤマ【カタヤマの秘密】