メイドイン・フランスの鰹節

世界が注目する日本の食文化。2013年には、「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録された。評価された特徴は、(1)多様で新鮮な食材とその持ち味の尊重、(2)健康的な食生活を支える栄養バランス、(3)自然の美しさや季節のうつろいの表現、(4)正月などの年中行事との密接な関わり──の4点。いわば、自然と共生する日本人の気質や習わしが世界的な評価対象となった。和食の味の根幹をなすのは、昆布や鰹節などを用いる「出汁(だし)」。かつては、ジャパニーズ・スープと呼ばれていたが、いまや「Dashi」や「Umami」という言葉が欧米の市民のあいだにも浸透するほどだ。

ところが、2015年7月、世界最大の食のイベント「ミラノ博覧会」において問題が起きた。会期中最大のイベント「ジャパンディ」レセプションにおいて、鰹節がEUの厳しい食品規制により日本から持ち込めないことが判明。日本政府は特例措置を働きかけていたものの、会場のスッテリーネ宮殿を指定していなかったために起きた“事件”だった。

ところで、鰹節の生産量日本一といえば、鹿児島県枕崎市。300年以上の歴史と伝統技術を誇り、日本の老舗料理店などで使われてきており、知名度はあるものの、販売とは結びつかず、他との差別化を図るため、2010年、「枕崎鰹節」(第5332076号・枕崎水産加工業協同組合)を地域団体商標として登録。国内では地域ブランドの成功例として知られているが、さらに2014年には、マドリッドプロトコル(標章の国際登録)により、全97か国で出願・登録。世界ブランドとして躍進する準備を重ねていたことがわかる。

逆転の発想でフランスに工場

和食ブームが広がるなかで起きたミラノ博覧会事件──枕崎水産加工業協同組合では、輸入がだめなら現地生産と、逆転の発想で、出資企業を募り、枕崎フランス鰹節を設立。2016年8月には、フランスのブルターニュ地方の港町、コンカルノーに鰹節工場をオープンさせた。コンカルノーは水産加工の町で、鰹もインド洋産のものが入手できる。そもそも伝統的ないぶしの製法の過程ででるベンゾピレン等が欧州では発がん性物質とされているが、このEU規制をクリアする製法を編み出し、「日本の鰹節にかなり近い味を出せた」とか。フル生産ともなれば、1日200本程度の鰹節生産が可能で、フランス国内はもちろん、ヨーロッパ圏の和食店や食材店に販売する。これまで旨み調味料や製法が違う中国産を使っていた料理店も、本格的な和食を提供できるようになるわけだ。ホンモノの出汁文化を広めることに、地域ブランドが寄与していると思うと、ちょっとうれしい。

特許業務法人プロテック プリント版ちざいネタ帖 Vol.16 2016/12/06より