コロナ商標と公序良俗

「キミのじまんのかぞくは、コロナ のじまんの社員です」。こんな言葉で締めくくられたメッセージ広告が新聞掲載されたのは6月15日のこと。住設機器メーカー(株)コロナ の小林芳一社長名で掲載されたもので、女性社員の子どもからの「コロナって悪者なの?」「コロナに行って、大丈夫なの?」といった声に真摯に応えたものだ。

新型コロナウイルス感染による緊急事態が世界保健機構(WHO)により宣言されてから4か月。社名が新型コロナウイルスを連想させることから、社員の家族が心ない攻撃的言葉に心を痛めることも数多くあったそうだ。同様にメキシコビールの代名詞「コロナビール」も風評被害を大きく受けて、38%の人がコロナビールの購入を控えているというデータも米国広告代理店により発表されている。

そもそも「コロナ 」とは、原義では王冠を意味するラテン語。英語のクラウンの語源であり、太陽の光冠や太陽や月の周りに見える光輪や暈(かさ)のことをさす。コロナウイルスも、太陽のコロナ を連想させる特徴的な外観形状からこの名が付いたそうだ。
一方、冒頭のコロナ社名は創業者が考案したもので、コロナ放電の色とコンロの青い光が似ていることなどから命名。戦前の1935年に登録した由緒ある商標なのだ(第0264549号)。

名車トヨタ・コロナ

ところで、こうした「コロナ 」に関する国内商標がどれだけ出願・登録されているか検索してみたところ180件あった。WHO発表以後と考えられる2020年出願の商標を確認してみると「コロナストップ」「コロナキラー」「コロナアタック」「コロナブロック」など、ウイルスを意識したネーミングも少なくない。コロナを冠したネーミングが効果をうたうものとして是非を論議する向きもあるが、商標法には、公序良俗に反するものは、商標登録できないというルールがある(商標法第4条1項7号)。公序良俗とは、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある」商標のこと。差別的・他人に不快な印象を与えるような商標のほか、社会公共の利益に反し、道徳観念に反する場合などがこれにあたる。コロナは特定のウイルスだけを指す言葉ではないし、(株)コロナをはじめすでに多数の商標が登録されていることから登録の方向にあると考えられる。

そういえば、1960年代に一世を風靡した国産自動車もコロナだ(第1163385号・現在も権利継続中) 。「明るく親しみのもてるファミリー・カーにふさわしい」とこの名を採用したとか。新型コロナは、トヨタの量産体制の実現やマイカーブームを担った名車でもある。風評被害もコロナ禍も「♪ここらでやめてもいいコロナ~」(自動車ショー歌/小林旭/1964年)。

特許業務法人プロテック ちざいネタ帖 Vol.49 2020/06/24より