Tシャツデザインと商標

2021年6月、ロックミュージシャン氷室京介氏の偽Tシャツを販売したとして、警視庁は会社員の男を商標法違反で逮捕というニュースがかけめぐった。男は、氷室氏の所属事務所が商標権をもつ「KYOSUKE HIMURO」のロゴに酷似したマークを付けたTシャツなどのグッズを製作・販売。もともと氷室氏の熱狂的なフアンで、ホームページなどを通じて仲間に販売。フアン同士の懇親会費用などに宛てていたらしい。

これは、たとえ悪意がなかったとしても、「販売目的」であれば商標権侵害として厳罰がくだるという典型例。商標権侵害行為は「10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金が課せられる(商標法第78条)」。またスポーツ用品メーカーのロゴのパロディもあとをたたないが、これらは商標権のもつ「宣伝広告機能を許可なく使用している」などと裁判で判断されてきている。

オリジナルTシャツはデータさえ持ち込めば1枚からでもつくれる。が、オリジナルTシャツ会社では、持ち込まれたデータやできあがった製品に関する商標権・著作権・肖像権などには責任はもたないと明記しているケースが大半だ。フリマサイトやネットオークションだとしても、販売してはならない、とキモに命じておこう。

なおみTシャツのスローガン

ところで、Tシャツといえば、昨今世界中で注目を集めているのがスローガン入り、つまり「ステートメントファッション」だ。ファッションリーダーとしても注目されるテニス界の女王、大坂なおみの「BLM(Black Lives Matter: ブラックライブズマター)」は記憶に新しいところ。主義や主張、権利や立場などのメッセージを服に託すことは“自分らしさ”を表現する最高のツールというわけだ。

こうしたスローガンを商標登録の観点でみると、「スローガンやキャッチコピーには一般的には識別性がない(商品や役務との関係で商標として認識されない)」として、日本国内、海外に関わらず、登録にはならないというのが原則だ。言い換えれば、原則には例外もあるということ。国内例では「がんばれ!ニッポン!」「ファイト一発」「自然と健康を科学する」などは登録になっている。

「BLM」や「Black Lives Matter」「I CAN’T BREATHE」も、米国や英国などで多数商標出願され、あるビジネスマンは非営利団体を計画し、第三者による使用に対してはロイヤルティ料金を請求、活動の原資にしていきたいと主張しているという。

一方スポーツウエアブランド各社では、BLMスローガン入りTシャツを積極展開。こちらはスローガンは商標外という認識に基づいているといえそう。商標は独占使用権であり登録はことの善悪とは別のところに制度がある。行方を見守りたい。

特許業務法人プロテック ちざいネタ帖 Vol.55 2021/06/21より

知財が支えるオリンピック

コロナ禍で開催があやぶまれる東京2020オリンピック・パラリンピック。3月25日、福島から聖火リレーがスタートしている。こうした市民の期待を背景にオリンピック関連の知的財産権侵害もあとをたたない。財務省によれば2019年の輸入差止件数(総件数)では100万点を超え、このなかに会社員によるレプリカのメダルや輸入商によるマスコットのピンバッジなどの検挙もあったそうだ。

オリンピック・パラリンピックに関する主な知的財産としては、オリンピックシンボル(五輪マーク)、パラリンピックシンボル(スリー・アギトス)のほか、エンブレム、マスコット、ピクトグラム、大会名称などがある。いずれも日本国内では「商標法」「不正競争防止法」「著作権法」により保護されており、国際オリンピック委員会(IOC)のほか、日本オリンピック委員会(JOC)、東京2020組織委員会の3団体が権利保有している。

スポンサー及びライセンシーは、多額のお金を支払う見返りとして(スポンサーレベルに応じて)、オリンピック関連商標や、商品・サービスのサプライ権、大会関連グッズ等のプレミアム利用権などを使用する権利を得ることができる仕組みだ。つまり、東京オリンピックは商標をはじめとする知的財産制度に支えられているといって過言ではない。総額6300億円の予算うち、国内外のスポンサー料(約4040億円)、ライセンシング(140億円)なのだ。

手づくり布マスクに五輪マーク

ところで、オリンピック関連商標の摘発で気になったのが、大阪府の無職の女性が販売していた五輪マーク入りの手づくり布マスクだ。百貨店で五輪商標入りの布を購入し、マスクに仕立て、フリーマケットアプリで販売し、商標権を侵害した疑い、というものだ(2021年1月15日)。

メルカリなどのフリーマッケットアプリやオークションサイトのほか、趣味や副業としてハンドメイド品を販売するサイトが花ざかり。コロナ禍で在宅時間がふえた人のなかには副業の位置づけとしてハンドメイド品を販売するひとも多くなってきた。

実際、ネットで検索してみると、五輪マークのアップリケやピアスなどのハンドメイド品が多数出品されており、このほかにも、フリー素材イラストのサイトにも、五輪マーク関連は多数あった。これらには「商用利用不可」と明記されているものの、どこまで拘束力があるかは不明だ。

ちなみに「がんばれ!ニッポン!」のスローガンも、JOCの登録商標。応援したい気持ちをもとに、オリジナルTシャツに文言をいれることは個人利用である限りはOKだが、販売は商標法違反に該当する。おまけに、販売量は関係ない。

あくまで“商用利用”が違法になるのだが、製作も販売も簡単にできてしまう現代生活———ハンドメイド品の購入にもお気をつけあれ。

特許業務法人プロテック ちざいネタ帖 Vol.54 2021/04/01より

関係業界は要注意。
  知っておきたい改正意匠法

2020年4月に抜本的大改正が行われた意匠法。登録例もニュースになり、改正の概要について全容がみえてきた。たとえば20250年11月に初の登録になったのは、「蔦屋書店(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)」の天井までの高さの棚に囲まれたロングテーブルのある内装や、書架で囲まれた小部屋が連続する「本の小部屋」。回転寿司の「くら寿司」では、アートディレクター佐藤可士和氏を起用したやぐらを組んだ内装。このほか、JR上野駅の駅舎や横浜にあるユニクロPARKの外観などだ。

意匠権とは、新しく創作された意匠=デザインを創作者の財産として保護するもので、改正前の意匠法では、家電や日用品、自動車など量産化できる「物品」の形状が対象。市場の競争力を高める一方で模倣やコピーの対象になりやすいためだ。

意匠権は、独占排他権であり、差止請求権、損害賠償請求権など効力が高く、また権利侵害の発見、つまり第三者による模倣が発見しやすいという面がある。意匠権は、場合によっては特許権よりも強力な効果を発揮する重要な産業財産権なのである。

意匠登録のわかりやすい例では、スマートフォンやバイクの外形、ペットボトル飲料の容器等。有名どころではヤクルトのプラスチック容器は1965(昭和40)年に意匠出願、75年に登録となり、権利期間満了の後、現在は立体商標登録されている。

建築デザイン業界は激震?

今回の意匠法改正はのポイントは、不動産である(1)建築物、(2)内装に加え、無体物である(3)(物品に化体しない)画像意匠、(4)これらを構成要素とする「組物」が新たに保護対象となったことだ。

つまり、昨今、外観や内装に特徴的な工夫をこらして「ブランド価値」を創出し、サービスの提供や製品の販売を行う事例がふえ、保護可能とする必要性がでてきたことが背景にある。

こうした流れは、実は、デザイン業界や建築・不動産業界のほか、アプリ開発など、これまで意匠法と関わりなかった業界に、大変革をせまっている。

例えば、デザイナーの立場にたって考えると、これまでは自分で創作したデザインは著作権で保護されており、デザインを利用する側(依頼した企業)は、著作権処理する。企業側はリスク回避のため、この契約に意匠創作者としての権利(意匠登録を受ける権利)も規定しておく必要がある。

また、今回の改正でデザインが保護された結果、今までのように他人のデザインを自由に使えなくなるケースもあれば、故意か否かにかかわらず無断で使用した結果として、意匠権侵害にあたる行為をおかしてしまうこともありうる。マーケットの変化に呼応する知的財産シーン。気になる方はぜひご相談ください。

特許業務法人プロテック ちざいネタ帖 Vol.53 2021/02/08より

「ぴえん」出願の背景

年末年始に話題を集める流行語大賞。2020年は「3密」「アマビエ」など新型コロナウイルス関連が上位を占める一方、ネットの世界で注目を集めているのが「ぴえん」。「ぴえん」は、泣きたい様子をあらわすオノマトペ(擬態語)で、目をうるませた絵文字も流行中。「2020上半期インスタ流行語大賞」、三省堂辞書を編む人が選ぶ「今年の新語2020」でも流行語部門の1位に選ばれた。

この「ぴえん」が、アパレル会社により商標出願されていることが特許庁のデータベースで11月に公表されるやいなや「独占していいのか」「もう使えないの?」とSNS上で物議をかもすことに。結論からいえば—— (1)登録にならない可能性が高い(2)仮に登録になったとしても、出願区分でのビジネスを行うのでなければ、問題はない。

実は「ぴえん」は、この出願以前に、おもちゃなどを指定商品に出願した例があり、これについて特許庁より11月に拒絶査定が出、審査中なのだ。これは「何人かの業務に係る商品又は役務であるかを認識することができない商標(商標法第3条第1項第6号)」に該当すると判断されたため、同様の経過を辿ることが想定できるのだ(2020年12月15日現在)。また、そもそも出願人であるアパレル会社では「独占的・排他的使用は想定していない」と表明している。

ネット通販が商標登録を加速

電通の「アマビエ」、集英社の地模様(鬼滅の刃)など、このところ「独占を目的にしない」商標出願が目立つようになってきた。なぜこうしたことが起きているのか——。

実は、インターネットショッピングモールなどで模倣品が販売されていた場合、個別の出店者ばかりでなく、サイトの運営会社が損害賠償など法的責任を負う場合があるため。各ショッピングモール運営会社などでは、これを回避するため、知的財産体制を強化する傾向にあるのだ。

例えば、楽天市場では、(商標権等)の権利者侵害窓口を設定。通報に対応する仕組みをとっている。一方、アマゾンでは、出店者にブランド登録を推奨し、事実上、商品登録の際に、商標登録(商標出願中も可)を求めるまでになっている。

今回の「ぴえん」を出願したアパレル会社でも、量販店を顧客としており、“卸売先や取引先に迷惑をかけないため”としている。また商品化についても権利確定後を予定しているという。

こうした独占や排他を目的としない商標出願は、「独占的な使用権を与えることにより業務上の信用の維持を図って産業の発展に寄与するとともに需要者の利益を保護する」という商標の目的(商標法第一条一項)とは、結果としてねじれ現象を起こしているようにも見える。これからの議論を待ちたい。

特許業務法人プロテック ちざいネタ帖 Vol.52 2020/12/22より

「鬼滅の刃」主人公の羽織はパッケージ!?

「鬼滅の刃」を知らなくても、コンビニのグッズや子どもたちの手作りマスクなどで、緑と黒の市松模様を見かけたひとは多いのではないだろうか。
「鬼滅の刀(きめつのやいば)」とは、大正時代を舞台に、鬼と化した妹を救う主人公の姿を描く、和風剣戟奇譚。少年ジャンプで掲載後、アニメ化され、少年たちのほかに若い女性フアンも獲得して、全年齢型コンテンツの驚異的ヒットとなっている。
この鬼滅の刀の版元である(株)集英社が、2020年6月24日、登場人物の6種の羽織の柄を商標出願。古典柄でもある地模様の商標出願をめぐって、知的財産の専門家の間でも論議を呼んでいる。

指定商品を確認してみると、9類(電子機器関連)、14類(アクセサリ関連)、16類(文房具関連)、18類(かばん関連)、25類(被服関連)、28類(おもちゃ関連)。
コンビニエンスストアのローソンでは、5〜8月に鬼滅の刃キャンペーンを実施。おにぎりやパン、スイーツなどのパッケージに市松模様や麻の葉模様をほどこしたタイアップ商品を発売したほか、文具類などのグッズの販売、キャンペーンのプレゼントのエコバッグなど、いずれの限定商品も、大変な人気を博している。
この商標出願について、ネット上では「商標ってマークじゃないの? 羽織の柄もマーク?」「日本の伝統柄なのに(権利の独占を目指すなんて)」といった反応が多数SNSに寄せられている。

トレード・ドレスかもしれない

地模様の商標登録に関しては、自他商品識別力を要求する総括規定である商標法第3条1項6号に該当するとして、もともと登録の対象から除外されてきた。地模様に特徴的な部分はなく、「“識別の標識”とはなりえない」というのが基本的な考え方だ。ではなぜ、集英社は商標出願したのだろうか。

実は、地模様の商標にはいくつか先例があるから、ややこしい。例えば伊勢丹のチェック柄(登録第5394671号)やポールスチュアート(登録第5515006号)など。ただし、これらは、拒絶査定不服審判を経て、登録に至った例なのだ。これには、著名であることの証拠提出など相応の立証が必須。つまり一見地模様と思しき外観であったとしても、特定の商品役務に使われてきたことで、地模様ではなく“特徴的な図形と認識”された場合なのである。
このほか、米国など諸外国では、トレード・ドレスという商品の外観やパッケージなどを知的財産として保護する制度もある(国際的基準が定まらず日本では未導入)。集英社としては、10月の映画公開を前に、第三者による登録の可能性の排除を目的したものか、あるいは拒絶査定を覚悟のうえ、議論を呼び込もうとしているのかもしれない。

※拒絶査定不服審判:特許庁により拒絶査定を受けた出願人が不服を申し立てる審判手続。審判官の審理により簡易裁判のような手続きが行われる。

特許業務法人プロテック ちざいネタ帖 Vol.51 2020/09/25より

アマビエと商標登録

疫病退散にご利益があるといわれる妖怪「アマビエ」を(株)電通が商標出願していたことが、特許庁関連のデータベースを通じて判明するやいなやネット上で大炎上。「庶民の慣習を登録して金儲けか」「名称を独占しようとしている」と抗議が殺到。公開からわずか1週間後の2020年7月6日、電通では出願そのものを取り下げた。

アマビエとは「肥後国海中の怪」(京都大学付属図書館所蔵史料)に描かれた妖怪のこと。2月下旬、妖怪掛軸専門店の大蛇堂が「コロナウィルス対策としてアマビエのイラストをみんなで描こう」とSNSで呼びかけ、多くのクリエイターによるアマビエイラスト制作が始まり、さらに3月中旬には水木しげる氏が1984年に描いたアマビエの原画を水木プロダクションがツイッターに投稿。ブームに拍車がかかり、爆発的に知られることに。いまや、御符をはじめ、ぬいぐるみ、菓子など、さまざまな場面でアマビエを見かけるようになってきた。新型コロナウイルス 収束への多くの人たちの願いのシンボルとなっている。

電通の商標出願では、9類(コンピュータ関係)、35類(広告、小売関係)、38類(放送関係)、42類(情報通信系サービス)など、多岐にわたるものだった。電通では、アマビエ という名を使うキャンペーンを計画していたことや(その際に他社が権利を保有していると権利侵害の可能性がある)、「商標の独占的かつ排他的な使用は想定していなかった」と釈明しているものの、消費者の理解は得にくかった。

ミーム化と登録のゆくえ

しかし。電通が取り下げたものの他の企業が商標登録となる可能性は残っている。電通以外でも「アマビエ 」の商標出願は、菓子や酒造メーカー、神社などすでに12件ありいずれも審査中だ(2020年7月10日現在)。

なぜ登録の可能性が残るかといえば、商標登録出願が拒絶される理由のいずれにもあたらないため。妖怪名では、すでに「カッパ寿司」「天狗」のほか、水木プロダクションの「猫娘」や「砂かけ婆」なども登録されている。このほか、神様の名前についても富士重工の「AMATERRAS(アマテラス)」の登録例までもがあるのだ。

ただし——。近年はミーム化(インターネット等を通じて急速に知名度が上がること)されたネーミングに関しては登録が拒絶される例も出てきている。「そだねー」「イナバウアー」「ハンカチ王子」など。アマビエの元絵は江戸時代後期の作品ですでにパブリックドメイン化。厚生労働省でも感染対策のモチーフとしている。さて。特許庁がどのような審査をし登録になるかどうか——。目が離せない。

特許業務法人プロテック ちざいネタ帖 Vol.50 2020/07/28より

コロナ商標と公序良俗

「キミのじまんのかぞくは、コロナ のじまんの社員です」。こんな言葉で締めくくられたメッセージ広告が新聞掲載されたのは6月15日のこと。住設機器メーカー(株)コロナ の小林芳一社長名で掲載されたもので、女性社員の子どもからの「コロナって悪者なの?」「コロナに行って、大丈夫なの?」といった声に真摯に応えたものだ。

新型コロナウイルス感染による緊急事態が世界保健機構(WHO)により宣言されてから4か月。社名が新型コロナウイルスを連想させることから、社員の家族が心ない攻撃的言葉に心を痛めることも数多くあったそうだ。同様にメキシコビールの代名詞「コロナビール」も風評被害を大きく受けて、38%の人がコロナビールの購入を控えているというデータも米国広告代理店により発表されている。

そもそも「コロナ 」とは、原義では王冠を意味するラテン語。英語のクラウンの語源であり、太陽の光冠や太陽や月の周りに見える光輪や暈(かさ)のことをさす。コロナウイルスも、太陽のコロナ を連想させる特徴的な外観形状からこの名が付いたそうだ。
一方、冒頭のコロナ社名は創業者が考案したもので、コロナ放電の色とコンロの青い光が似ていることなどから命名。戦前の1935年に登録した由緒ある商標なのだ(第0264549号)。

名車トヨタ・コロナ

ところで、こうした「コロナ 」に関する国内商標がどれだけ出願・登録されているか検索してみたところ180件あった。WHO発表以後と考えられる2020年出願の商標を確認してみると「コロナストップ」「コロナキラー」「コロナアタック」「コロナブロック」など、ウイルスを意識したネーミングも少なくない。コロナを冠したネーミングが効果をうたうものとして是非を論議する向きもあるが、商標法には、公序良俗に反するものは、商標登録できないというルールがある(商標法第4条1項7号)。公序良俗とは、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある」商標のこと。差別的・他人に不快な印象を与えるような商標のほか、社会公共の利益に反し、道徳観念に反する場合などがこれにあたる。コロナは特定のウイルスだけを指す言葉ではないし、(株)コロナをはじめすでに多数の商標が登録されていることから登録の方向にあると考えられる。

そういえば、1960年代に一世を風靡した国産自動車もコロナだ(第1163385号・現在も権利継続中) 。「明るく親しみのもてるファミリー・カーにふさわしい」とこの名を採用したとか。新型コロナは、トヨタの量産体制の実現やマイカーブームを担った名車でもある。風評被害もコロナ禍も「♪ここらでやめてもいいコロナ~」(自動車ショー歌/小林旭/1964年)。

特許業務法人プロテック ちざいネタ帖 Vol.49 2020/06/24より

商標拳とデザイン経営

最近、YouTubeで話題の「商標拳」をご存知だろうか。模倣かオマージュか——中小企業の社長が、模倣品を製造元する悪徳社長と知的財産を武器にたたかうドラマ仕立てのカンフー風動画だ。ワイヤーアクションやCGを使った本格的もので、エンターテイメント性あふれるたのしい動画になっている。

特許庁のホームページにも、商標拳の特設ページがあり「ビジネスを守る奥義」のキャッチ。おかたい役所イメージからかけ離れた仕上がりになっている。「商標権はビジネスの基本」、「商標権を知らずにビジネスをすることは経営上の大きなリスク」という特許庁のメッセージがダイレクトに伝わってくる。

このほかにもYouTubeには、特許庁によるJPOチャンネルがあり、商標ではニュース番組風の「商標チャンネル全体版」(約40分)をはじめ、音商標や色商標など新しいタイプの商標についてや、地域ブランドなどの解説動画もある。このほか、特許庁発のJPO Channelは、特許や意匠権、また、職務発明制度の概要など、中小・零細企業ならばすぐにでも役立ちそうな、さまざまな動画を展開。今後もさらに充実させていきそうな勢いでもある。

知的財産権は、企業規模にかかわらず、取得できる武器でもある。近年、中小企業を中心に商標をはじめとする知的財産権の出願は増加傾向にあるものの、全体数から見るとまだまだ少なく、ヒット商品の模倣や係争事件などがあとを絶たない。これの解消を目指し、知的財産権の活用をうながすための動画発信というわけだ。

デザイン経営ってなんだろう

ところで、特許庁が率先して、こうした動画作成や発信をはじめた背景には、2018年に経済産業省・特許庁が策定した「デザイン経営宣言」がある。
「デザイン経営」とは、デザインの力をブランドの構築やイノベーションの創出に活用する経営手法のこと。その本質は、人(ユーザー)を中心に考えることで、根本的な課題を発見し、これまでの発想にとらわれない、それでいて実現可能な解決策を、柔軟に反復・改善を繰り返しながら生み出すことだそうだ。デザインとは、メッセージを発信するブランド価値であり、また人々が気づかないニーズを掘り起こしてイノベーションを実現する事業の営みそのものであるという考え方だ。アップルやダイソンを思い浮かべるとわかりやすいかもしれない。

特許庁内においても、デザイン思考を導入することによって、より質の高いサービスが期待できる分野に対してこれを実践すると表明していた。

それが、エンターテイメント性あふれる商標拳につながったのかもしれない。見習いたいところだ。

特許業務法人プロテック プリント版ちざいネタ帖 Vol.48 2020/02/29より

中国に負けた? 無印良品

2019年11月、「無印良品」ブランドで知られる(株)良品計画が中国の現地企業と商標「無印良品」を争ってきた問題で、良品計画が敗訴、約1000万円の支払いを命じる判決がでたというニュースが飛び込んできた。判決は、北京市高級人民法院の二審によるもので、日本の最高裁判所に相当するもの。良品計画は一審でも敗訴しており、この二審判決をもって訴訟は終結。すでに賠償金は支払われているそうだ。無印良品といえば、1980年、量販店の西友や西武百貨店などで販売を開始した、プライベートブランド。2020年2月期の会社計画(予想)では売上高4554億円、海外を含め420店舗にのぼっている。それではなぜ、良品計画は敗訴してしまったのだろうか。

良品計画の「無印良品」の日本国内商標を確認してみると、1982年、無印良品の名入札などのロゴマークを15の区分で出願。後の1993年以降、赤いゴシック体のロゴでの商標出願している。また外国出願も、海外への展開を始めた1993年以降のことだ。今回、係争の焦点となったのは、2001年中国で登録となった海南南華実業貿易の商標「無印良品」。タオルなどを対象とする24類で、後の04年には北京棉田紡績品有限公司に譲渡されていた。一方、良品計画は05年に中国へ進出をはじめる。北京棉田では、上海無印良品を設立し、日本の無印良品そっくりの「無印良品Natural Mill」の展開を始めていたのだ。

パクったもん勝ち?

つまり——良品計画が現地での出願・登録や中国の進出をする以前に、中国で商標「無印良品」が無関係の他者により取得されてしまっていたということ。むろん、日本でのブランド人気を知ってのことだろうし、知的財産権は国ごとの独立の法制度だから、いったん中国商標局によって登録になった商標は、現地ではやむなしだ。ちなみにこうした中国での〝パクったもん勝ち”の商標には、「有田焼」「讃岐うどん」がある。

ところで良品計画では、欧米への進出とともに2016年頃から「MUJI」を前面に押しだしたブランド展開を積極的に行ってきた。MUJIは、中国人の間でも絶大な人気をほこっており、MUJI=(日本発の)本家無印良品という認識が広がっているのが実情らしい。また、中国国内からも「北京棉田は登録商標を返上すべし」という声が挙がっていると聞く。とかく知財意識が低いかのように思われてしまう中国だが、2008年に知的財産を国家戦略に位置付けて以来、着実に実績を挙げてきている。なんといっても知財裁判がインターネット中継されるほど世界一すすんでいるとも言われる。奢れるものは久しからず。知的財産の実績においても中国から目が離せない。

特許業務法人プロテック プリント版ちざいネタ帖 Vol.47 2020/01/30より

パロディと地域ブランド

このところ、地域ブランドのパロディ商品をめぐる知的財産問題が浮上している。最近の話題でいえば、兵庫県の「ONO消しゴム」。小野市観光協会が製造・販売したもので、観光名所をあしらった消しゴムの他に、知名度の高い消しゴム「MONO」にあやかった「ONO」を製作。ケースはあわいブルー・ホワイト・ネイビーの3色ストライプに、ゴシック書体のONOの文字。MONOと似たようなデザインで、いわばシャレを効かせたパロディのつもりらしいが、イベントでの販売をはじめた2019年10月、商標権者の(株)トンボ鉛筆からクレームがついた。

小野市観光協会によれば、消しゴム製造業者から「字体やケースの色を変えれば問題ない。トンボ鉛筆にも確認済み」と説明されていたというが、パロディとはいえ、発売元は許諾をはじめとするコンプライアンスや知的財産管理を直接すべきであったことは、いうまでもない。ただし、この事件は、すみやかに対処され約千個を返品。協会とトンボ鉛筆では「どんなデザインなら許可を出せるか」協議をはじめている。

ちなみに、MONOブランドは、知的財産業界では、色商標第1号として知られる。色彩のみからなる商標の登録には顕著な識別性が必要で、昭和44(1969)年から使用している3色ストライプは周知性の高さが立証された。

高知の財布!

一方、上手なパロディで躍進しているところもある。財布など製造・販売の(株)ブランド高知だ。20代の若者が立ち上げた地域ブランドで、出身地の高知県を盛り上げようと企画。丸みを帯びた漢字の書体「高知」をあしらったデザインの財布を開発した。米国のハイブランド「COACH」と似た読みの「こうち」であることが評判を呼び、お笑い芸人がSNSに投稿するや爆発的ヒットに。さらにパロディ界の勝訴例として名高い「フランク三浦」(フランク・ミューラーのパロディ時計)ともコラボして、活況を呈している。

ONO消しゴムはNGで、高知の財布はなぜOKなのか——。パロディに関わる知的財産関連法は(1)著作権法 (2)商標法 (3)不正競争防止法の3つ。いずれも権利者からの親告が基本になっていることがポイントだ。実は「高知」は2017年に商標出願したが著名商標と混同のおそれがあるなどの理由で拒絶査定を受け、登録に至っていない。が、COACHの方は問題視していないので、OKというわけだ。もちろん“いまのところ”である。

思いついたダジャレで商品化できるかどうか——グレーゾーンも広く、見極めも必要。ぜひご相談ください。

特許業務法人プロテック プリント版ちざいネタ帖 Vol.46 2019/12/11より