名キャッチコピーはだれのもの?

「やめられない、とまらない カルビー かっぱえびせん♪」のCMといえば、老若男女を問わず多くのひとが親しんだメロディとフレーズ。このおなじみのキャッチコピーをめぐる法廷闘争があった。

2017年12月、「やめられない、とまらない」のコピー考案者であると主張するH氏がカルビー(株)を相手どり訴えを起こしたもので、自身が広告代理店勤務した時代に考案したのに、カルビー社員が考案したとされ、精神的な苦痛を被ったという内容。H氏が属していた広告代理店が制作したことを認め、社内報・ホームページに掲載すること等を求め、提訴した損害賠償請求金額は1億5000万円にのぼった。結論からいえば翌年3月末には全面棄却の判決が出、カルビーの全面勝訴となった。

かっぱえびせんの誕生は1964年。69年に「やめられない、とまらない」のコピーが大当たりして現在に至るわけだが、当時は広島と東京のみに放映。
もともとH氏が属していた中堅の広告代理店によるCM制作だったが、爆発的ヒットとともに大手代理店に変更。これあわせ音楽出版社が著作権を取得、すでにカルビーは許諾を受けて使用している。

H氏が訴訟に至ったのは、平成23(2011)年にテレビのドキュメンタリー番組で、かのキャッチフレーズ誕生の再現ドラマが放映されたことに端を発する。カルビーと広告代理店との販売会議が煮詰まった際に、カルビー社員が発した言葉「やめられない、とまらない」が元になったとされていたのだ。これに対してH氏は抗議の面談や書面のやりとりを行い、名コピーの誕生秘話として社内報のインタビューまで受けた。一方のカルビーは番組に対して監修を行ったわけではないとしつつも、事実確認ができないとして、社内報掲載を見送ったという経緯がある。つまりH氏にとっては、プライドをかけた〝たたかい〟だったということだろう。

そもそも、特許庁では原則的に一般のキャッチフレーズに対して、商標登録を認めていない。また著作権は自分で工夫した言葉や音楽などを対象としてアイディアの手法を保護するもの。短い言葉の組み合わせであるキャッチコピーは著作権の対象になりにくいのだ。

ちなみに現在は、「やめられないとまらない」と「カルビー」は、文字商標のほか、サウンドロゴが音商標として商標登録されている。他のサウンドロゴやキャッチコピーも同様だが、制作者である作曲家やコピーライター、広告代理店は、クライアント企業の下請け関係にあり、立場的に著作権や知的財産権の主張はしづらい。ライセンス契約も同様だろう。クリエイター側も権利意識の向上を目指したいものの、現状では広告代理店やクライアント企業の側の知的財産意識の高まりに期待するしかない。

特許業務法人プロテック プリント版ちざいネタ帖 Vol.33 2018/09/11より