認定制度と商標のビミョーな関係

新そばを求めて、安曇野を訪ねたときのこと。店内の目立つところに、商標の登録証が掲げられているのを見つけた。

よく見ると、「信州そば切りの店」の看板風のロゴがあり、出願区分は、「第42類 長野県産そば粉を使用した手打ちそばの品質に関する認証」(登録第5657688号)とある。

別の額には「信州そば切りの会」による、信州そば切りの定義(一、そば粉は長野県産のみ 一、つなぎの割合は30%以下 一、そば打ちの工程すべてが手作業)があり、この会よる認定制度の概要が記されていた。

もちろん、供された新そばは、香り高くまことに美味で、ほかの認定店にも足を運んでみようかという気にもなった。ある種のグループで一定の品質を保証する「証票」として商標を活用し、また日々の営みによって信用を蓄積していくことは、商標活用の王道でもある。しかし。そば湯をすするに至り、「ちょっと待てよ」と。というのも、前日も山あいの民宿でうまい手打ちそばを味わっていたからだ。

商標権というのは、法的に保障された非常に強い権利であるとともに、排他的効力を有する。認定を受けてない店が「信州そば切りの店」の看板を掲げる行為は商標権侵害となり、商標権者は差止請求ができる。あくまでも認定制度についてのサービスマークであるし、「そば」そのもの(区分第30類=穀物の加工品)や飲食物の提供(43類)でもないから、悪意は感じられない。

このところ、より広く知らしめるためという善意、そして悪用を阻止するため(とんでもない品質のものに名付けて販売されることがないよう)という例が増えているような気がしている。

権利主体に注目する

データベースで調べてみると、権利者が個人名であることが気になった。これは任意団体では権利主体になれない故にリーダー名にしたのではないか。あえていえば、こうした個人名での商標取得は、いわば善意、もしくは性善説に基づいた日本人的な感覚でもあると思う。商標権はあくまで個人のものであって、相続も譲渡も可能な資産であるからだ。

団体を一般社団法人やNPO等の法人化するか、あるいは地方自治体等が主体になって認定制度をつくり、権利主体となったほうが、より公共性の高い認定制度なり、商標活用=地域ブランドづくりになるのではないかと考えた。

認定制度といえば、伝統芸能の家元制度の商標事件を思い出した。本家&元祖争いは古今東西、永遠の世のならいでもある。これについては、また別の機会に──。

特許業務法人プロテック プリント版ちざいネタ帖 Vol.4 2015/11/30より

パクリとインスパイアの境界線

パクリ騒動で、すっかりミソのついた五輪エンブレム問題。商標法だけの観点でみると、マーク自体に類似する先願は存在しなかったことが判っている。それではなぜ、取り下げるに至ったのか──。

それは、著作権に 抵触する可能性が大きかったため。当初、使用差止を求めたベルギーの劇場(後に取下)やデザイナーが主張しているのは、創造的に表現した自らの著作物に、依拠または盗用して いる疑いがあるからだ。デザイナーS氏 が、洋酒メーカーのエコバッグ・デザインにパクリであったことを認めたことで、いっそう倫理的・感情的な問題として膨張していった。事実関係はといえば、いまも闇のなか。本人が沈黙している限り、白日の下にさらされることはない。

ヴィトンの楽器が誕生か?

ところで、第67回正倉院展(2015年10月24日〜11月9日・奈良国立博物館)で、1300年前の「紫檀木画槽琵琶」をメインビジュ アルにしたポスターが公開されるや、ちょっとした論議が巻き起こった。
というのも、ペルシャに起源をもつという四弦琵琶の背面デザインが、ぱっと見たところ、ルイ・ヴィトン社の代表的な図柄「モノグラム」にそっくりだから。紫檀の濃い茶色に、象牙や緑に染めた鹿の角などを組み合わせた小花模様がナナメに規則正しく並び、遠目には、ヴィトンが琵琶をつくりはじめたかのようさえに見えてしまう。

偽造品対策として誕生したモノグラム

ルイ・ヴィトン社のモノグラム・キャンバスは、1896年、 偽造品対策&世界的ブランド確立のため、2代目のジョルジュ・ヴィトンにより考案されたもの。パリ万博をきっかけに大流行していたジャポニズムの影響を受け、日本の家紋に「インスパイア」(=触発)されたものと伝えられている。しかし、モノグラムのバッグを見て、日本の家紋をイメージする日本人は少ない。これぞ、オリジナルの著作物というわけだ。また、五輪エンブレム問題以上に、正倉院の収蔵品を100年以上前のフランス人が参考にしていたかどうかを検証することは不可能に近い。つけ加えれば、1300年前の琵琶だから、著作権も切れている。

ルイ・ヴィトン社では、「偽造は、児童・強制労働などと同じく人権を侵害する行為であり、コミュニティに被害を与えるもの」と明言している。知的財産が社会的資産であることを物語る査証だろう。

特許業務法人プロテック プリント版ちざいネタ帖 Vol.3 2015/11/01より