「鬼滅の刃」主人公の羽織はパッケージ!?

「鬼滅の刃」を知らなくても、コンビニのグッズや子どもたちの手作りマスクなどで、緑と黒の市松模様を見かけたひとは多いのではないだろうか。
「鬼滅の刀(きめつのやいば)」とは、大正時代を舞台に、鬼と化した妹を救う主人公の姿を描く、和風剣戟奇譚。少年ジャンプで掲載後、アニメ化され、少年たちのほかに若い女性フアンも獲得して、全年齢型コンテンツの驚異的ヒットとなっている。
この鬼滅の刀の版元である(株)集英社が、2020年6月24日、登場人物の6種の羽織の柄を商標出願。古典柄でもある地模様の商標出願をめぐって、知的財産の専門家の間でも論議を呼んでいる。

指定商品を確認してみると、9類(電子機器関連)、14類(アクセサリ関連)、16類(文房具関連)、18類(かばん関連)、25類(被服関連)、28類(おもちゃ関連)。
コンビニエンスストアのローソンでは、5〜8月に鬼滅の刃キャンペーンを実施。おにぎりやパン、スイーツなどのパッケージに市松模様や麻の葉模様をほどこしたタイアップ商品を発売したほか、文具類などのグッズの販売、キャンペーンのプレゼントのエコバッグなど、いずれの限定商品も、大変な人気を博している。
この商標出願について、ネット上では「商標ってマークじゃないの? 羽織の柄もマーク?」「日本の伝統柄なのに(権利の独占を目指すなんて)」といった反応が多数SNSに寄せられている。

トレード・ドレスかもしれない

地模様の商標登録に関しては、自他商品識別力を要求する総括規定である商標法第3条1項6号に該当するとして、もともと登録の対象から除外されてきた。地模様に特徴的な部分はなく、「“識別の標識”とはなりえない」というのが基本的な考え方だ。ではなぜ、集英社は商標出願したのだろうか。

実は、地模様の商標にはいくつか先例があるから、ややこしい。例えば伊勢丹のチェック柄(登録第5394671号)やポールスチュアート(登録第5515006号)など。ただし、これらは、拒絶査定不服審判を経て、登録に至った例なのだ。これには、著名であることの証拠提出など相応の立証が必須。つまり一見地模様と思しき外観であったとしても、特定の商品役務に使われてきたことで、地模様ではなく“特徴的な図形と認識”された場合なのである。
このほか、米国など諸外国では、トレード・ドレスという商品の外観やパッケージなどを知的財産として保護する制度もある(国際的基準が定まらず日本では未導入)。集英社としては、10月の映画公開を前に、第三者による登録の可能性の排除を目的したものか、あるいは拒絶査定を覚悟のうえ、議論を呼び込もうとしているのかもしれない。

※拒絶査定不服審判:特許庁により拒絶査定を受けた出願人が不服を申し立てる審判手続。審判官の審理により簡易裁判のような手続きが行われる。

特許業務法人プロテック ちざいネタ帖 Vol.51 2020/09/25より