ファッション・ローの風

11月上旬、日本発のファッションブランド「ザ・リラクス(THE RERACS)」が、巨大ファストファッションブランド「ザラ(ZARA)」を相手どり、勝訴というニュースが入ってきた。コートの形態の模倣・販売が不正競争防止法の不正競争行為に当たるとして損害賠償を申し立てていた事件で、東京地裁は約1000万円の支払いを命じ、両社とも控訴はせずに判決が確定したというものだ。

リラクスでは、米軍ユニフォーム由来のデザインのモッズコートを2016年以前から5万円超の価格で販売していたところ、ザラは2016年に基本形態のみならず細部の形態に至るまでほぼ同一形状のコートを1万円以下という低価格で製造・販売。ネットでも「完コピ品が廉価で手に入る」と話題になっていた。ザラ側は、通知の段階で販売を中止したものの「一般的なミリタリーパーカとしては極めてありふれたものにすぎない」として反論していた。

この件がニュースになるのは、そもそもファッションの識別性は、ブランド保護、つまりロゴマークや商標が主軸で、サイクルの早い服そのものの形状は知財による保護にはなじまないという認識が一般的であったため。実用品である衣服については、著作権法でも保護されないという歴史的背景がある。

しかし、ファッション関連企業の投資回収機会の損失の問題やグローバル化を背景に、デザインやブランドの保護・強化を求める動きが急速に拡大。グローバル規模の紛争事例も急激に増えてきた。

特許出願もさかん

これを受けて欧米では、近年、ファッション業界の知的財産権を保護する「ファッション・ロー」が注目され、ファッションブランドやデザインの保護制度の進展に取り組む専門家も増えてきているそうだ。ただし、解決すべき法制度上の問題は、山積。これからの分野と言わねばならないだろう。

ファッションの権利保護では、現状では、商標登録でブランド保護をするほか、「立体商標」や「意匠」で保護を図る例も増えてきている。このほか、機能性などをうたい、特許出願する例もある。

例えば、ZOZOTOWNのZOZOSUIT。身体の寸法を瞬時に採寸できるという、伸縮センサーを内蔵した採寸ボディスーツ。特許庁のデータベースをみると「サイズ測定装置及びサイズ測定システム」などの特許を出願している。運営会社の(株)スタートトゥデイでは、ホームページ上で「ZOZOSUITよりも更に簡単に低コストで高精度な体型計測が可能となるアイデアや特許」を募集。3億円という買取価格を提示するなど知財戦略に積極的な姿勢だ。衣服のデザインのみならず、購入法やシステムなどファッションそのものが変容するいま——弁理士といえどもファションに無関心ではいられなさそう。

特許業務法人プロテック プリント版ちざいネタ帖 Vol.35 2018/11/20より

ダンスの振付と著作権

近年は学校教育の現場でも必修化されたダンス。フォークダンスなど大勢で楽しく踊るものから、プロによる難易度の高いものまでさまざまなものがあり動画サイトでも人気だ。そのダンスを魅力的なものにしているのが振付。そのダンスの振付に関し、著作権侵害の法廷闘争があった。

原告は、ハワイ在住のフラダンス指導者。自らが創作した振付を許可なく著作権を侵害されたとして、フラダンス教室運営団体を相手どり、教室での指導や会員による上演差止などを求めて大阪地裁に提訴。2018年9月20日、著作権侵害を認め、会員への指導や国内上演禁止と損害賠償金の支払いを命じる判決が出、指導者である原告が勝訴した。

運営団体側は「フラダンスは基本動作の組み合わせにすぎず、著作権はない」と反論していたが、裁判では「楽曲の振付で部分的に作者の個性が表れていれば、その一連の流れ全体の著作物性が認められる」と判断された。それでは、ダンスの振付における著作権はどう定義づけられるのか。まず、著作権法で保護される著作物とは「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術、又は音楽の範囲に属するものをいう」(著作権法2条1項)と、あいまいな表現。しかし著作物の具体的例示のなかには「舞踏又は無言劇の著作物」が挙げられており(著作権法10条1項)、ダンスの振付もここに含まれる。実際、過去の裁判事例でも、日本舞踏の創始者が二代目家元を訴えた訴訟で、「各舞踏は振付者の思想、感情を表現したもので著作性を有する」と認められた。一方、映画『Shall We ダンス?』のテレビ放映の際、振付師が映画会社を提訴したが「既存ステップの組み合わせで独創性を認めるほど顕著な特徴はない」と退けられたこともある。

踊るときには許諾が必要?

つまり、振付師が独自に考えた、思想又は感情が創作的に表現されたものであれば著作物とされるというのが前提。著作物はすでに存在するステップの組み合わせにとどまらない顕著な特徴を有する独創性が必要ということになる。

したがって、振付師が考えた振付(著作物)を踊る場合には「公衆に直接見せる場合は上演権」(著作権法22条)についての許諾が必要になってくる。「公衆」とは、お店で踊ったり、学校や会社の行事など特定多数の場合もさすので注意が必要。ちなみに、非営利・無料・無報酬での上演であれば許諾の必要はない。公民館でボランティアで踊ることなどがこれにあたる。つまりAKBの「恋チュン」ダンスにも著作権はあるが非営利・無料・無報酬ならばOK。ただしそれを撮影したら上演権の、動画サイトに公開すると公衆送信権の侵害になってしまう。著作権リテラシーは一人ひとりが身につける時代。ダンス好きのみなさん、理解した上で楽しんでください!

特許業務法人プロテック プリント版ちざいネタ帖 Vol.34 2018/10/10より

名キャッチコピーはだれのもの?

「やめられない、とまらない カルビー かっぱえびせん♪」のCMといえば、老若男女を問わず多くのひとが親しんだメロディとフレーズ。このおなじみのキャッチコピーをめぐる法廷闘争があった。

2017年12月、「やめられない、とまらない」のコピー考案者であると主張するH氏がカルビー(株)を相手どり訴えを起こしたもので、自身が広告代理店勤務した時代に考案したのに、カルビー社員が考案したとされ、精神的な苦痛を被ったという内容。H氏が属していた広告代理店が制作したことを認め、社内報・ホームページに掲載すること等を求め、提訴した損害賠償請求金額は1億5000万円にのぼった。結論からいえば翌年3月末には全面棄却の判決が出、カルビーの全面勝訴となった。

かっぱえびせんの誕生は1964年。69年に「やめられない、とまらない」のコピーが大当たりして現在に至るわけだが、当時は広島と東京のみに放映。
もともとH氏が属していた中堅の広告代理店によるCM制作だったが、爆発的ヒットとともに大手代理店に変更。これあわせ音楽出版社が著作権を取得、すでにカルビーは許諾を受けて使用している。

H氏が訴訟に至ったのは、平成23(2011)年にテレビのドキュメンタリー番組で、かのキャッチフレーズ誕生の再現ドラマが放映されたことに端を発する。カルビーと広告代理店との販売会議が煮詰まった際に、カルビー社員が発した言葉「やめられない、とまらない」が元になったとされていたのだ。これに対してH氏は抗議の面談や書面のやりとりを行い、名コピーの誕生秘話として社内報のインタビューまで受けた。一方のカルビーは番組に対して監修を行ったわけではないとしつつも、事実確認ができないとして、社内報掲載を見送ったという経緯がある。つまりH氏にとっては、プライドをかけた〝たたかい〟だったということだろう。

そもそも、特許庁では原則的に一般のキャッチフレーズに対して、商標登録を認めていない。また著作権は自分で工夫した言葉や音楽などを対象としてアイディアの手法を保護するもの。短い言葉の組み合わせであるキャッチコピーは著作権の対象になりにくいのだ。

ちなみに現在は、「やめられないとまらない」と「カルビー」は、文字商標のほか、サウンドロゴが音商標として商標登録されている。他のサウンドロゴやキャッチコピーも同様だが、制作者である作曲家やコピーライター、広告代理店は、クライアント企業の下請け関係にあり、立場的に著作権や知的財産権の主張はしづらい。ライセンス契約も同様だろう。クリエイター側も権利意識の向上を目指したいものの、現状では広告代理店やクライアント企業の側の知的財産意識の高まりに期待するしかない。

特許業務法人プロテック プリント版ちざいネタ帖 Vol.33 2018/09/11より

プリンスホテルのブランド力

テレビで放送されたこともあって、話題となった「田端プリンスホテル」。中国系オーナーが経営する格安ホテルに対し、西武グループの(株)プリンスホテルが抗議を行い、「名称差止」の通告書を出したというもの。(株)プリンスホテルでは1992年に商標出願をしているが、田端のオーナーはロゴがまったく異なること、さらにオーナーの中国名「王」にちなんだものという主張をしているそうだ。西武グループが長年かけて築いてきたブランド力をきずつけかねない。が、問題をややこしくしているのが、熱川プリンスホテルや菅平プリンスホテルなど、西武グループ以外で「プリンスホテル」を冠している宿泊施設が全国に20軒ほど存在していること。これに対する不公平感はいなめない。

これは商標登録出願以前からプリンスホテルの名を使用していたホテルに対しては「先使用権」(商標法第32条)が認められるため。先使用権とは商標や発明を使用(実施)していたことに基づいて、権利侵害にならずに使用を続けることを認める権利のことで、ある程度有名(周知商標)であることが条件だ。

さらにいえばこのこの事態の原因は、西武グループがホテル開業した60年代には、ホテルの宿泊サービスの役務を対象にした商標制度がなかったことにある。西武グループの商標登録出願は92年。役務(サービス)に対しての商標=サービスマーク制度はこの年の4月に発足したという経緯がある。

卓越したネーミングの才?!

いまやプリンスホテルといえば西武グループというほどに、そのブランド力は定着。その卓越したネーミングは、西武グループの創業者で後に衆議院議員となった実業家 堤康次郎氏(1889~1964年)が、敗戦後行われた宮家廃止に伴い生活に困窮した旧宮家の土地を買いあさってホテルを建て、皇族にちなんだ名を冠したことにはじまる。第一号となった軽井沢の千ヶ滝プリンスホテル(旧軽井沢ホテル・朝香宮沓掛別邸後)は、皇族用の施設で、かの「テニスコートの恋」の舞台ともなった。堤氏はその後も、貴族・旧大名等の土地を買いあさり、グランドプリンスホテル高輪(竹田宮邸跡)、東京プリンスホテル(徳川家霊廟跡)、品川プリンスホテル(毛利邸跡)などの開業により、そのブランド力を確固たるものとしてゆく。

「ピストル堤」の異名をとったという堤康二郎氏。皇族らの土地に目をつけたことといい、セレブレティな価値を想起させるネーミングといい、まさに天才的であったのかもしれない。サービスマーク制度以前でもあり、フリーライド(ただのり=他者が築き上げた信用と名声に便乗して利益を得ようとする行為)の概念も当時は適用されなかったということらしい。

特許業務法人プロテック プリント版ちざいネタ帖 Vol.32 2018/08/01より

スピリッツなきウルトラマン

タクシーに乗ったら、ウルトラの父の堂々たる姿をキービジュアルにした広告。育毛の父ということらしい。1966年にテレビ放映されて以来、半世紀を超える永遠のヒーローシリーズだから、中高年をターゲットにしたマーケティング。なるほど拡大路線か……と合点したのは、4月に話題を集めたニュースを見ていたからかもしれない。

4月のニュースとは、円谷プロが米国ウルトラマン海外利用権訴訟で勝訴したというもの。1976年タイ人実業家と当時円谷プロの代表を務めていた円谷皐(のぼる)氏との間で交わされたとされる日本をのぞく海外での独占的利用許諾の覚書の〝真偽〟が問われたもの。この件はこれ以前に日本・タイ・中国の裁判所で20年以上も争ってきており判決も二転三転したという経緯がある。

今回の米国訴訟が注目されたのは「ディスカバリー(証拠開示手続)」と呼ばれる証拠収集手段が採用されたため。ディスカバリーとは、訴訟手続の中で相手方当事者の支配領域下にある文書や証人等について開示を求めることを認めた極めて強力なもの。証拠資料はトラック1杯分ともいわれる膨大さで、厳格性や公明正大さにおいては定評があり、円谷プロ側は「今後はさらにウルトラマン作品の積極的な海外展開を進めて行く所存です」と、絶対の自信を覗かせている。が、ことはそう簡単ではないらしい。ディスカバリーは米国の裁判手続であって、証拠能力をいかに評価するかは各国の裁判所に委ねられるからだ。

キャラクタービジネスのさきがけ

なぜここまでの混乱を招いてしまったのだろうか。半世紀以上の歴史の中のことではあるが、特撮の神様といわれた創業者円谷英二のこだわりは、そのまま高制作費体質であったことが挙げられるかもしれない。これを補ってきたのが怪獣などソフトビニール人形などライセンシングビジネスの収益であり、経営の両輪だった。つまり円谷プロは我が国のキャラクター&ライセンスビジネスのさきがけ的企業なのだ。資金面をみても、当初は東宝など制作との結びつきが大きかったが、次第に玩具メーカーやCMコンテンツ会社などの支援を受け、その結果、制作の方はコマーシャル的な制約を受けざるを得ない。現在では、円谷一族は円谷プロの経営から排除され、バンダイとパチンコ関連企業の傘下となっている。

円谷プロの代表を務めたこともある英二氏の孫の円谷英明氏は先の判決に際して「制作者は作品にメッセージを込めてつくるもの。(現在の円谷プロには)スピリッツがない」と批判している。つまりライセンシングビジネスにおける許諾の核心は「スピリッツ」にあるということ。肝に命じたい。

*参考:『ウルトラマンが泣いている 円谷プロの失敗』(円谷英明著・講談社現代新書)

特許業務法人プロテック プリント版ちざいネタ帖 Vol.31 2018/07/17より

立体商標「きのこの山」

2018年5月10日、株式会社明治は3月30日付で「きのこの山」が立体商標に登録されたと発表して一躍話題だ。「きのこの山」は1975年発売のチョコレートスナック菓子。2層のチョコレートに加えたクラッカーとの味わいが人気だが、スタイリッシュ全盛の時代にあえて郷愁を誘う「きのこの山」の名を冠したことがヒットの要因といわれた。

立体商標としては、2015年8年に出願したものの2017年に特許庁により登録を拒絶され、さらに6月20日に再出願。ねばり強く認知度調査データや生産量・販売量・広告宣伝量などをまとめた調査報告を意見書として特許庁に提出。90%以上が「見ただけできのこの山だとわかる」という認知度調査の結果、識別力を有していることが認められ、このほど、めでたく立体商標として登録されたわけだ。

菓子では珍しかった立体商標

立体商標とは、立体的形状(文字、図形、記号若しくは色彩又はこれらの結合との結合も含まれる)からなる商標のことで、1997年4月に施行。過去に立体のみで登録された例では、日本ケンタッキー・フライド・チキンのカーネル・サンダース立像、コカコーラの瓶、ヤクルトのプラスチック容器、キッコーマンのしょうゆ卓上瓶などがある。つまり多くのひとが「ああ、あれね」と判ることが必要。また企業名や商品名の文字やマークが付いていれば登録は容易だが、ふつうは菓子の一つひとつに名をつけているわけでもない。

きのこたけのこ戦争のゆくえ

こうした理由のほか、菓子そのものではデザインの選択肢が狭いために、登録のハードルが高かった。菓子の商品区分(30類)では、世界的に有名なHARIBOのグミしか登録になっておらず、かの銘菓「ひよ子饅頭」(ひよ子社)ですら、2015年に出願して以来、現在も拒絶査定不服審判中なのだ。今回の「きのこの山」の立体商標登録がいかに画期的であるかわかると思う。

ところで、79年発売の姉妹商品「たけのこの里」との間で、〝きのこたけのこ戦争〟が勃発していることをご存じだろうか。「きのこ党」「たけのこ党」それぞれに特設サイトがあり、たけのこ党302万票余、きのこ党187万票余と、たけのこ党が大きくリード(2018年5月10日現在)。マニュフェストや賞品付きキャンペーンなど大々的に展開している。ちなみに明治では「たけのこの里」の立体商標出願の予定はないらしい。さて。あなたはどちら?

特許業務法人プロテック プリント版ちざいネタ帖 Vol.30 2018/05/22より

そだねー♪ カー娘をめぐる知財騒動

平昌オリンピック カーリング女子で銅メダルを獲得した「カー娘」ことLS北見。休憩時間の栄養補給「もぐもぐタイム」も注目を集め、LS北見の地元のチーズケーキ『赤いサイロ』へは注文が殺到。製造が追いつかず、すでに数ヶ月待ちだそうだ。

もぐもぐタイムでもうひとつ注目されたのが、大きなイチゴ。選手のひとりが「韓国のイチゴ、お気にいりでした」と絶賛する姿が放映されると、農林水産大臣がいちはやく「日本流出の品種」と指摘。「もぐもぐタイムで韓国のイチゴが話題になり、日本の品種が海外に流出している事実を、特に農家の皆さんに知ってもらうよい機会だ」と述べた。

というのも、この韓国ではイチゴの栽培面積の9割が日本品種をもとに開発された品種で、いわば無断使用の盗品であることが分かっている。しかも、アジア各地にさかんに輸出されている。日本の農産物の海外展開を目指す農水省では、果物や野菜の品種の海外流出を防ぐことをアピールする絶好の機会だったわけだ。

ところで、カー娘の人気でもうひとつネット上で話題を集めているのが「そだねー」の商標出願問題だ。マルセイバターサンドなどで知られる「六花亭製菓」が3月1日に菓子の区分で商標出願したことが発表されると、ネット上では「あざとい」「嫌いになった」などと、批判が続出。六花亭では、これまでに中国で「六花亭」が使えなくなった経験などから、『そだねー』が使えなくなることを懸念し、独占の意図はないことを説明していた。

「そだねー」も早いもの勝ち

ところが──六花亭製菓が出願する2日前の2月27日、北見工業大学生協の職員が個人名で商標出願していたことが判明。北見工大では、LS北見の鈴木夕湖選手が同大の卒業生であるほか、教員が日本カーリング協会の強化委員長を務めるなど関わりが深い。卒業式に間に合うように胸に「そだねー」の文字、背中にストーンが描かれた記念Tシャツをつくったところ即完売。注目度が高いことから、文具、衣料、菓子の使用区分で商標を出願したのだそうだ。

ここで、あらためて注目したいのが、商標の先願主義だ。北見工大では、当初の出願を生協職員の名前で行い、現在、出願人の名義変更手続中だそうだ。つまり、商標の出願先願主義(=先に申請した者に権利が与えられる)などに精通した職員が、(稟議などに時間をかけずに)いち早く手続きを行ったと考えられる。北見工大生協では、「商標が認められれば生協が販売するグッズの利益をカーリング振興に役立てるよう寄付する」「カーリング普及のためなら無償で使用を許可したい」としている。出願は、スピードが大切──という教訓だ。

特許業務法人プロテック プリント版ちざいネタ帖 Vol.29 2018/03/28より

地理的表示と地域ブランド

地方創生を背景に、地域ブランドへの注目が集まる昨今。地理的表示と、商標などとの関係についてのおたずねがふえてきた。例えば、「地域団体商標と地理的表示のちがいは?」「地理的表示はどこに登録すればいいのか」──等々。また、ニュースサイトにも散見するようになってきた。例えば筒型緑色パッケージでおなじみの「パルメザンチーズ」(米国産粉チーズ・森永乳業)。日本とEU連合の経済連携協定のもとで、イタリアを代表する熟成チーズ「パルミジャーノ・レッジャーノ」の保護が求められているため、名称変更を迫られそうだ。

平成27年にスタートした日本の地理的保護制度では、2017年末には「近江牛」(一般社団法人滋賀県畜産振興協会)、「八丁味噌」(愛知県味噌溜醤油工業協同組合))など10品目が追加され、アジア圏などへの輸出にはずみがつくものと大きな期待が寄せられている。

そもそも「地理的表示」とは、品質や評価などが生産地と結びついている農産水産物産品・食品の名称のことで、例えば「○○(地名)りんご」「▲▲(地名)カニ」「●●牛」などがある。つまり、その製品の品質、特徴、評判が、主として原産地に起因するものでなければならない。

海外では古くから、地域ブランドの保護が行われており、例えば「カマンベール・ドゥ・ノルマンディー」(フランスノルマンディー地方で飼育されたノルマンディー種の牛の生乳を50%以上使用し、伝統的な製法をつくられたカマンベールチーズ)や「プロシュート・ディ・パルマ」(イタリアパルマ地方において伝統的製法でつくられた生ハム)、シャンパン(フランスシャンパーニュ地方でつくられた発泡白ワイン)などがある。

GIは四半世紀以上の実績が必須

こうした地域ブランド産品の価値を保護するのが「地理的表示保護制度」(GI制度=Geographical Indication)だ。GI制度は知的財産の一つだが、国連の世界知的所有権機関(=WIPO)のリスボン協定や世界貿易機関(WTO)などの国際ルールがあり、どのような手段で実施するかは、加盟各国に委ねられている。わが国では、2015年6月1日に「地理的表示保護制度」がスタートしている。

地域団体商標との違いは、端的にいえば、GIは、地域を特定できる農林水産物等を対象に、生産地と結びついた品質等の特性を有し、一定期間(おおむね25年)継続生産された実績があることで、農林水産省に申請。申請者は生産加工業者の団体に限られている。一方の地域団体商標は、すべての商品・サービスで、組合や商工会、NPO法人が申請主体で特許庁に出願する。地域ブランドの知的財産保護を検討する際には、ぜひご相談を。

特許業務法人プロテック プリント版ちざいネタ帖 Vol.28 2018/01/12より

歴史的経緯と地域団体商標

師走の声をきくと同時に、あちこちでお節商戦がはじまった。そんななか、お節料理に欠かせないかまぼこをめぐる地域団体商標について、2017年11月24日、横浜地裁小田原支部において判決が出てその行方が注目されている。

小田原蒲鉾協同組合は、組合が保有する地域団体商標「小田原かまぼこ」(商標登録第5437575号)の名称をめぐり、無断で使用したとして、非組合加盟の食品業者、佐藤修商店(南足柄市)を相手取り損害賠償及び販売と商標使用の差し止めを求める訴訟を起こしていたもの。組合は「地域ブランド」の信用に便乗していると主張していた。

判決では原告側の請求は全面的に棄却された。つまり食品業者は「小田原かまぼこ」の商標使用が認められたわけだ。組合側は商標権を保有しているのに、なぜ、こうした判決になってしまったのか──。疑問に感じる方も多いだろう。

判決理由を確認してみると──。組合が商標出願した2010年以前から食品会社では使用していたことが挙げられ「先使用権」(不正競争の目的がないことが条件)が認定された。つけ加えれば地域団体商標制度自体が、2006年に発足したこともある。

とくに注目したいのは、指定商品(29類)の「小田原産かまぼこ」の“小田原”の範囲についても検討されたことだ。小田原のかまぼこは、関東大震災以降、静岡県や山口県等の他地域で水揚げされた魚が大量に使われるようになっており、原材料の点では地域との関連性はほとんどないと指摘された。

江戸時代にさかのぼる地理

また、南足柄と小田原は、蒲鉾製造がはじまった江戸時代には、両方とも小田原藩に属していた。江戸時代にはいまの小田原市に製造業者が集中していたが、昭和以降は近隣に移転する業者もあり、現在の地理表示でははかれない“歴史的経緯”が考慮された。つまりこの判決では、地域団体商標の重要な構成要素である地域について、歴史的経緯を含めた柔軟な判断が示されたわけだ。

一方、原告の小田原蒲鉾協同組合は、控訴の意向を示しているそうだ。組合は明治中期に発足した同業者組合が前身。地域団体商標ロゴマークによる品質保証のほか、「小田原蒲鉾十箇条」を設け、例えば「小田原蒲鉾本来の製法・技法・技術を頑固に守り、将来もそれを尊重する意思を持っていること」等、品質保持に努める姿勢を貫き、活発な活動を行っている。ブランドとは何か──に立ちかえれば、品質・価値を示し、混同を避けるためのもの。今後は、フリーライド(信用へのただのり)が争点になってきそうだ。裁判の行方を見守りたい。

特許業務法人プロテック プリント版ちざいネタ帖 Vol.27 2017/12/11より

サルの自撮りの著作権

2017年9月、サルの自撮り写真についての著作権訴訟が、米国サンフランシスコ控訴裁判所での2年におよぶ裁判のうえ、結審したというニュースが飛び込んできた。対象となった写真は、2011年、インドネシアのジャングルで英国の動物写真家デイビット・スレーター氏のカメラを使ってマカクザルの“ナルト”が撮影したとされるもの。動物愛護団体「動物の倫理的扱いを求める人々の会(=PETA)」が、著作権はサルの“ナルト”にあると主張し訴訟を起こしていた。

訴訟は「ナルト対デイビッド・スレーター」と呼ばれ、ネットを介して世界中の注目を集めた。当の画像が出回り、記憶に残っている人も多いはずだ。

カメラの所有者であるスレーター氏は、「写真が撮られる状況を作り出すために自分が多大な努力を払ったことから、自分が著作権を主張する正当性は十二分にある」(BBC NEWS JAPANより)と主張。数日かけてジャングルに滞在してサルたちの信頼を得たからこそサルに近づくことができたという。また、自身が自然保護活動家で、写真に世界中から感心が高まることで、すでにインドネシアの動物保護に貢献していると強調していた。

このほか裁判では、サルの写真は、どのサルが撮影したかでも意見が対立。PETAはナルトと呼ばれる雌ザルと主張し、一方の写真家は別の雄ザルだったと主張していた。

動物は法律の対象外

2年間の審理の後、裁判所は、サルには著作権保護が適用されないと判断し、PETAが上訴を断念し、写真家の勝訴が確定。著作権はスレーター氏にあることが確認された。

そもそも、著作権に限らず、法律は人を対象にしたものであり、法律で確認され、認められる権利が帰属するのは人のみ。人とは、生物学的なヒトである自然人と法人からなる。これはローマ法に由来する世界共通の概念なのだそうだ。

動物愛護に関しては「動物の愛護及び管理に関する法律」(略称・動物愛護法)があり、動物の虐待が禁止されている。しかし動物愛護の法の精神は「生命尊重、友愛及び平和の情操の涵養に資する」ことであって、あくまで人が対象。つまり、法律上は、動物は「物」として扱われるのである。

それではなぜ、PETAは訴訟を起こしたのか──PETAの弁護士は「動物たち自身のために動物の基本的権利を拡大する必要がある。PETAの画期的な訴訟をきっかけに、動物の基本権について、大々的な国際議論が起きた」と語っている。

判決後、PETAとスレーター氏は共同発表文を発表。写真の著作権収入の4分の1が“ナルトの生息地や生活を守る”ことに取り組む慈善団体に寄付されることが盛りこまれている。めでたし、めでたし。

特許業務法人プロテック プリント版ちざいネタ帖 Vol.26 2017/11/05より