サルの自撮りの著作権

2017年9月、サルの自撮り写真についての著作権訴訟が、米国サンフランシスコ控訴裁判所での2年におよぶ裁判のうえ、結審したというニュースが飛び込んできた。対象となった写真は、2011年、インドネシアのジャングルで英国の動物写真家デイビット・スレーター氏のカメラを使ってマカクザルの“ナルト”が撮影したとされるもの。動物愛護団体「動物の倫理的扱いを求める人々の会(=PETA)」が、著作権はサルの“ナルト”にあると主張し訴訟を起こしていた。

訴訟は「ナルト対デイビッド・スレーター」と呼ばれ、ネットを介して世界中の注目を集めた。当の画像が出回り、記憶に残っている人も多いはずだ。

カメラの所有者であるスレーター氏は、「写真が撮られる状況を作り出すために自分が多大な努力を払ったことから、自分が著作権を主張する正当性は十二分にある」(BBC NEWS JAPANより)と主張。数日かけてジャングルに滞在してサルたちの信頼を得たからこそサルに近づくことができたという。また、自身が自然保護活動家で、写真に世界中から感心が高まることで、すでにインドネシアの動物保護に貢献していると強調していた。

このほか裁判では、サルの写真は、どのサルが撮影したかでも意見が対立。PETAはナルトと呼ばれる雌ザルと主張し、一方の写真家は別の雄ザルだったと主張していた。

動物は法律の対象外

2年間の審理の後、裁判所は、サルには著作権保護が適用されないと判断し、PETAが上訴を断念し、写真家の勝訴が確定。著作権はスレーター氏にあることが確認された。

そもそも、著作権に限らず、法律は人を対象にしたものであり、法律で確認され、認められる権利が帰属するのは人のみ。人とは、生物学的なヒトである自然人と法人からなる。これはローマ法に由来する世界共通の概念なのだそうだ。

動物愛護に関しては「動物の愛護及び管理に関する法律」(略称・動物愛護法)があり、動物の虐待が禁止されている。しかし動物愛護の法の精神は「生命尊重、友愛及び平和の情操の涵養に資する」ことであって、あくまで人が対象。つまり、法律上は、動物は「物」として扱われるのである。

それではなぜ、PETAは訴訟を起こしたのか──PETAの弁護士は「動物たち自身のために動物の基本的権利を拡大する必要がある。PETAの画期的な訴訟をきっかけに、動物の基本権について、大々的な国際議論が起きた」と語っている。

判決後、PETAとスレーター氏は共同発表文を発表。写真の著作権収入の4分の1が“ナルトの生息地や生活を守る”ことに取り組む慈善団体に寄付されることが盛りこまれている。めでたし、めでたし。

特許業務法人プロテック プリント版ちざいネタ帖 Vol.26 2017/11/05より