まだまだ続く「うんこ」ブーム♪

ここ数年、「うんこ」が人気を博しているのをご存知だろうか。ブームのきっかけとなったのは、2017年に文響社が出版した『うんこ漢字ドリル』。小学校で学ぶ漢字1006字を3つずつ、合計3018の例文にうんこを使うという学年ごとの学習書だ。例えば——「天気(よ)ほうで見たことのないうんこマークが出た」、「ずっと前からうんこがもれる予(かん)がしていました」(3年生版より)等々。シリーズ累計398万部(2019年2月)を突破する大ヒットを更新中だ。実はドリルの大ブレイクに先行して、うんこに着目し事業化をはじめていた企業があった。その名も(株)うんこ。知的財産業界では、2014年に初めてとぐろを巻いたうんこの図形商標(25類被服等・登録第5712612号)を出願した会社として知られる。というのも、出願の際、代理人からは「審査の過程で、登録にならない可能性がある」といわれていたらしい。

これは、商標法の「公序良俗違反」(第4条第1項7号)というルールの解釈をめぐるもの。公序良俗とは、国家・社会の公共の秩序と普遍的道徳を意味し、公序良俗を害する商標として、非道徳的、ひわい、差別的、他人に不快な印象を与える文字や図形などを指している。登録にならなかった例として、殺害を意味する「KILL」や歴史上の人名の「仏陀」「ヒトラー」、国際信義に反する「ヤンキー」などがある。凡例はあるものの、公序良俗違反の概念は抽象的であるし、価値観は時代とともに変遷するため、グレーゾーンも大きい。それが先の代理人の見解であり、また当初は図形商標で出願するという判断だったかもしれない。

おならもOK!

(株)うんこは、もともと安全靴等の卸販売をする(株)のばのばの関連会社で、新業態開拓のため、競合がなかったうんこビジネスへと大きく舵取りをしたそうだ。とぐろマーク登録後の2016年には、「unco」「うんこ」を商標登録。オリジナルTシャやスニーカーなどをオンラインショップで販売するほか、いまや「うんち」や「おなら」など、おしりまわりの商標は全部登録したそうだ。

これ以外にも、2019年3月、面白法人カヤックが、東京お台場と横浜に「うんこミュージアム」をオープン。またドリルの文響社も、うんこ例文やうんこ作家コンテストのほか、うんこ書道展などのイベントも実施。うんこ人気は、複数の業態を巻き込んでさらに広がりをみせている(ちなみに、商標では食品の区分での出願登録はいまのところない)。

ところで、うんこ、と口にしただけで、思わず笑いがこみあげてしまうのは、何も小学生男子に限ったことではない。さて、このテキスト内で、何回うんこを連発したと思いますか?

特許業務法人プロテック プリント版ちざいネタ帖 Vol.45 2019/11/14より

平等院鳳凰堂のパズル

2019年3月、世界遺産として知られる平等院鳳凰堂を無断で撮影した写真を用いたジグソーパズルを販売したとして、平等院が製造・販売元の(株)やのまんを相手取り、販売停止や在庫処分などを求めて京都地裁に提訴。現在も係争中だ。

やのまんでは、プロ写真家から提供された、ライトアップされた鳳凰堂の画像を300ピースのパズルに使用している。

この事件が、注目されるのは、建築の著作権に関するものであるため。美術性のある建築物は、著作権は発生するものの、撮影禁止となれば風景写真も撮れなくなってしまう。そのため、著作権法46条(公開美術の著作物等の利用)では、建築物は基本的に撮影・利用は自由。SNS投稿、Webサイトへのアップロードも認められている。これは他の著名な建築物などでも同様で、彫像などのオブジェでも、パリのエッフェル塔でも、スカイツリーでも同じこと。ましてや鳳凰堂は平安時代後期天喜元年(1053)という千年近く前に建立されたもの。とうに著作権は切れている。

ただしこれは私的利用に限ってのこと。今回、問題になったのは商用利用である点だ。平等院では、境内で撮影された写真の商用利用を禁止しており、パンフなどにも記載している。では、商用利用の場合どうするかといえば、許諾性になっていることがほとんどだ。これは著作権法ではなく契約上の問題だ。いまやオリジナル画像を使ったポストカードやカレンダーなども少部数から簡単に発注できてしまうが、これを販売するのはNG。誰にも気をつけてほしいところだ。

モナリザはバラバラでもOK

それでは、何が争点なのか──やのまんのホームページなどから「見解の相違」という言葉が浮かび上がってくる。平等院側では「パズルでバラバラにされるのは耐え難い」という宗教的な感情を挙げており、商用利用を安易に許可したと誤解され「社会的評価が低下した」と訴えている。また宗教施設に配慮した一定のルールづくりへの布石にしたいという意図もあるそうだ。一方のやのまんでは、鳳凰堂の図柄は10円硬貨をはじめさまざまな商品に使われ「パブリックドメイン化(共有財産化=知的財産権が発生していないまたは消滅した状態のこと)」しており、社会的評価を損ねることはないと反論している。やのまんといえば1970年代にモナリザ展に先立ち、750ピースのパズルを販売して一斉を風靡した会社なのだ。

法的根拠があいまいな文化財の利用を制限していくべきか、もしくは海外のように国民の共有財産として、施設側が率先して高画質画像を公開し自由利用を認める方向に導くのか──ことの判断は、そう簡単じゃなさそうだ。

特許業務法人プロテック プリント版ちざいネタ帖 Vol.44 2019/10/10より

知財のかたまり「空調服®」

酷暑にみまわれた2019年夏。東京オリンピック2020に向けた準備が急ピッチですすむなか、爆発的なヒットを飛ばした商品がある。あちこちの建築工事現場でみかけるモコモコ膨らんだ作業服、「空調服®」。発売以来最大の約130万着を記録したという。空調服とは(株)空調服による「(猛暑対策用)電動ファン内蔵ウエア」のことで、密閉性の高い長袖服の腰のあたりに2基のファンを搭載。服の中に風を送ることで汗を気化させ、気化熱を奪い身体を冷やす仕組みで、人体が本来備えている「生理クーラー理論」に基づくものだ。

同社ホームページによれば、現会長で開発者の市ヶ谷弘司氏は元ソニーのエンジニアで、東南アジアでビル建設現場を眺めているうちに「電力消費量はすごいだろうな」と考え、これが〝空気を涼しくするのではなく、着衣で涼しくすること〟を思い立つきっかけになったとか。生理クーラー理論は、人間には脳を制御装置として皮膚や体温を温度センサーに暑いと感じた際には汗腺から必要量の汗を出し、汗の気化熱で体温をコントロールする生理機能に着目。空調服着用の場合、身体と平行に大量に空気を流すため、汗の完全蒸発=生理クーラーが効いている状態が一般服よりも広く涼しく感じられる。

普通名称化への懸念

気になる知的財産はといえば、1着あたり20ほどの特許技術が使われているといい、現在では、海外を含めたライセンス生産や販売も積極的に行われている。(株)空調服の研究機関である(株)セフト研究所の特許出願件数は、国内特許で約120件、中国やヨーロッパなどへの外国出願も約20件に上っている。ブラウン管関連技術に携わってきた市ヶ谷氏にとっては、元来は専門外の技術だったと考えられるが、ひらめきを形にしてゆく飽くなき探究心と粘り強さ、そして知的財産を重要視してきたことが、今日の繁栄を築いているようで頼もしい。

ところで、「空調服」の名称は(株)空調服の登録商標〔登録第4871177号〕。2004年に(株)セフト研究所名義で出願したもので、空調服を発売した翌年の平成17(2005)年には社名に採用している。現在、出回っている電動ファン内蔵ウエアの4割は、空調服(ライセンス契約者含)以外の製品だそうだ。実際、空調服専門の販売サイト名にも使用されている(許諾やライセンス契約しているのかもしれないが)。商標登録はしていても、すでに普通名称化しつつあるという懸念がないではない。

商標の普通名称化とは、特定の企業が提供する商品・役務を識別する標識としての機能(自他商品役務識別機能・出所表示機能)を有していた名称が、徐々にその機能を消失させ、需要者(エンドユーザーなど)の間で一般名称として認識される現象をいう。人気商品ならではの悩みかもしれない。

特許業務法人プロテック プリント版ちざいネタ帖 Vol.43 2019/09/10より

「KIMONO」と文化の盗用

アメリカのタレント、キム・カーダシアン・ウエストさんが、自身の矯正下着ブランドに「KIMONO(キモノ)」とネーミング。2019年6月に米国においてロゴで商標出願を行い、ドメイン名を取得するなど、事業展開をツイッターなどで大々的に発表するやいなや、米国・日本内外でたちまち炎上してしまった。

日本の伝統的な民族衣装を侮辱するものだという批判の声が噴出し、日本からは、京都市長がブランド名を再考するよう書簡を送付。書簡では着物を「日本人の美意識や精神性、価値観の象徴」と位置づけ、着物文化のユネスコ無形文化遺産への登録を目指す取組を紹介しながら、私的に独占すべきものではないとした。この他、経済産業相をはじめ、和装の業界団体までが声を挙げた。英国ロンドンの博物館のSNSでも、「着物は16世紀から日本で階級や性別を問わずあらゆるひとの主要な衣服となり、いまも日本の文化を象徴する」と説明し、抗議のためのハッシュタグもまたたく間に広がり、欧米メディアにも採り上げられた。一方のカーダシアンさんは、「日本文化における着物の重要性を理解し、尊敬の念を持っている」としながらも、当初は、KIMONOというブランド名を変えるつもりはないとしていた。が、批判の高まりのなかで1週間後には撤回するに至った。炎上商法という説もある。ちなみに、キム・カーダシアンさんの愛犬の名は、「SUSHI(スシ)」。日本文化を理解(?)したうえで、あえてネーミングしたことがわかる。

七輪のタトゥは笑い話に

このところ、とくにファッション業界を中心に「文化の盗用」が問題視されることが多くなっている。例えばメキシコ先住民の伝統的衣装を盗用したといわれたイザベル・マラン(仏)、白人モデルにシーク教徒のターバンを巻いて登場させたグッチ(伊)、メキシコの伝統を称賛する広告キャンペーンに白人女性を起用したディオール(仏)など、ハイブランドも非難の対象になった。文化の盗用は英語の「cultural appropriation」の翻訳で盗むニュアンス以外に私物化の意味がある。力のある文化が力の弱い文化を利用することを意味し、異なる文化の間に力の不均衡が存在する時に起こる。米国の根深い人種差別と、多様性を重視する時代背景の中で、問題がクローズアップされるようになってきた。KIMONOの件では、日本もいまだ差別の対象ということを露呈してしまった。

日本文化の盗用といえば思い出すのが、米国の歌手、アリアナ・グランデが手のひらに描いた「七輪」というタトゥ。ヒット曲タイトル「Seven Rings」のつもりで彫ったものらしいが、日本からは「それ、焼肉焼くやつ(笑)」の反応。批判の声はほとんど挙がらなかったそうだ。

特許業務法人プロテック プリント版ちざいネタ帖 Vol.42 2019/07/30より

アディダスの3本線と識別力

我がオフィスのある渋谷の街を消しゴムのMONOデザインのバスが走った6月下旬。アディダスの3本線が、EU裁判所により商標登録を認められなかったというニュース(ロイター)が流れてきた。

アディダスでは2014年、同じ幅の3本の平行線が等間隔に配される「図形商標」を、衣料、靴、帽子などの区分で商標登録。これに対しベルギーのシュー・ブランディング・ヨーロッパが無効審判を申し立てた係争事件だ。

アディダスの保有する欧州連合の図形商標(EUTMM012442166号)を確認してみると、「本マークは商品に任意の向きで付された3本の等間隔・等幅のストライプである」と記載され、縦にモノクロで直線3本が並んでいるだけ。つまり、どの部位につけようが、どの向きにしようがアディダスが権利をもつという、非常に権利範囲の広い商標だった。このほか、アディダスの3本線の商標は、台湾企業など複数の国で係争の対象になっている。商標ではもっとも重要視される「識別力」の観点からみると、普通の模様と区別がつきにくくシンプルすぎるとでもいおうか。EU裁に際し、アディダスではEU域内5カ国内のデータを提出したが認められなかった。また、アディダスは他にもスニーカーやスポーツウエアの左袖など特定の場所に特定の向きで3本線をつける図形商標登録している。

識別力をいっそう強固に

ところで、冒頭に挙げたMONO消しゴムデザイン。おなじみの青・白・黒のトリコロール&ストライプは社内デザイナーによるオリジナル作品だ。

われわれ知的財産業界では、このMONOカラーといえば、色商標登録第一号(登録第5930334)として知られている。色商標(色からのみなる商標)とは、2015年4月1日から出願が開始された新しいタイプの商標制度で、形状によらず特定の色だけで特定企業が独占できる非常に強い権利だ。そのため、一般消費者にどれだけ浸透しているか、認知されているかが登録の要件で、ハードルも高い。

MONO消しゴムのデザインは、50周年の節目にあたる今年7月5日、歴代のMONOデザイン5種をセットにした「モノカラー誕生50周年記念セット」(5個入り税別600円)を発売。ピンバッヂのおまけつきだ。SNSで話題を呼んだラッピングバスをはじめ、Webサイトなどでは「これであなたもMONO知りキャンペーン」を大々的に実施し、同デザインのモノリュック、モノスニーカー、モノTシャツをプレゼントしている。

色商標や図形商標の観点からみると、いかに消費者にそれが浸透しているかの「識別力」がカナメ。各種のキャンペーンも、識別力をいっそう強固なものにしようする企業姿勢がかいま見える。

特許業務法人プロテック プリント版ちざいネタ帖 Vol.41 2019/07/09より

世界に一つだけの花

元号が令和に変わる直前の4月中旬、日本音楽著作権協会(JASRAC)により平成年間(平成元年〜31年)の著作物使用料分配額TOP100の発表があった。ランキングは平成期にJASRACが作詞家、作曲家、音楽出版社などの権利者へ分配した著作物使用料をまとめたもの。CDや配信による売上だけでなく、カラオケ、コンサート、放送などあらゆる利用を反映している。1位はSMAPの『世界に一つだけの花』(作詞・作曲:槇原敬之)、2位は五木ひろし・木の実ナナの『居酒屋』(作詞:阿久悠/作曲:大野克夫)、3位はアニメBGM『エヴァンゲリオンBGM』(作曲:鷺津詩郎)。以下、『川の流れのように』『残酷な天使のテーゼ』『ふたりの大阪』と続く。

なかでもダントツのTOPとして注目されたのが『世界に一つだけの花』。シングルの発売は平成15(2003)年と平成期のちょうど真ん中。戦後の復興から高度経済成長、バブルの昭和を経た平成不況のさなかで、人それぞれの幸せとは何かを考え始めたころ。「ナンバーワンではなくオンリーワン」というメッセージはまさに平成という時代を象徴するもの。累計販売数は312.7万枚(2019年2月オリコン調べ)にのぼった。

槇原敬之氏の談話によれば「ナンバーワンではなくオンリーワン」という歌詞のベースには、それぞれがそれぞれの個性に無限の尊厳性を認めあい存在するという仏教の教えがあるそうだ。また「SMAPがいてこそできた曲」と明言している。それではSMAP解散後のいま、仮に再結集したとして、彼らによる再演やレコーディングの可能性はあるのだろうか。

著作権信託と大人の事情

音楽著作権の観点からみると、著作権者は作詞家と作曲家。一般的には作詞・作曲の著作権をJASRACCのような著作権等管理事業者に信託するほか、音楽出版社(著作権管理やプロモートを行う)に著作権を譲渡したうえで、信託する方法がある。JASRACのデータベースJ-WIDによれば、『世界に一つだけの花』は、槇原氏個人の作詞・作曲とジャニーズ出版の出版者と3件の権利者が登録されている。JASRACでは特定の人のみを対象に許諾を否認できないから、著作権上は誰でも利用できそうではある。が、ここで終わらないのが大人の事情。芸能プロダクション所属アーティストの場合、専属実演家契約を結び、一定期間、第三者はレコーディングできないことにするのが一般的。つまり仮にSMAPが再結成したとしても事実上難しそう。槇原敬之氏はSMAP解散直後に「歌い継いでいくのは僕らしかいない!」とラジオ番組で発言したそうだ。カラオケ行かなきゃ!

特許業務法人プロテック プリント版ちざいネタ帖 Vol.40 2019/05/24より

平成・令和とブランド高級魚

平成という時代を振り返るとき、マーケットの変化とともに商標の制度自体が大きくさま変わりする道程であることに気づく。平成4(1992)年のサービスマーク(役務の商標)をはじめ、立体商標、小売商標、音商標、色商標等、新しい商標制度が続々と登場。なかでも注目したいのが、地域団体商標(2006年施行)などの地域ブランドに関する商標。地域おこしや訪日観光、農林水産物輸出などの風を受け、令和の御世もいっそう活況を呈しそうな勢いだ。例えば、魚の地域団体商標の代表格の「関あじ」「関さば️」(大分県漁業協同組合)。かねてから味のよさで知られていた豊予海峡でとれる高級ブランド魚だが、認知が高まるにつれて偽物が出回るようになり、1996年にタグシールに用いるロゴマーク等を組合で出願・登録。地域団体商標が発足した2006年の春にはいち早く出願し、希少な高級魚として、全国区の知名度を得た。

地域団体商標とは、地域の名称と商品(または役務)の名称の組み合わせからなる商標で、出願人は、事業組合等に限定されている。水産品では「越前がに」、「大間まぐろ」、「豊橋うなぎ」、「鵡川ししゃも」など、およそ50品目が登録になっている(特許庁)。そもそも商標には「信用の蓄積」という役割があり、とくに地域団体商標については地域の旗印となるブランド保護という使命がある。そのため、各漁協(商標権者)は、商標取得と同時に厳格な品質管理が必要になってくる。

徹底した品質管理がカナメ

例えば「関さば」「関あじ」は、大分県の別府湾にのぞむ佐賀関沖で獲れるサバ・アジのことで、一般的なサバ・アジは広い海を群れになって回遊するのに対し、他の海域の群れと交わることなく生育される〝系群〟と呼ばれる魚群だ。餌が豊富なこの海域だけで成長するため、脂がのっていながら身の引き締まった絶品の味わいになり、さらに安定した品質を担保できるのだという。一本釣りのみで、魚体がぶつかり傷ついてしまう曳網はしない。さらに釣りたての魚は異常な興奮状態にあるため、水揚げした魚は1日いけすで泳がせてから出荷する。またいけすのまま目測によって重量を特定する「面買い」という方法がとられている。これらブランド化の成功は漁協が魚を買って売るという画期的な仕組の採用があればこそでもある。徹底したブランディングは、海外からも注目を集め、体験学習などの研修を受け入れているそうだ。

豊洲市場がそうであるように、水産物の地域ブランドは今後は海外展開を視野にいれていくことは必至。JETRO(日本貿易振興機構)に外国出願等、海外展開を支援する助成事業があるほか、特許庁においてもさまざまな支援策を講じている。要件も逐次変更があるので詳しくは、お問い合わせを。

特許業務法人プロテック プリント版ちざいネタ帖 Vol.39 2019/04/15より

意匠法改正と建築物の知的財産

2019年3月1日、意匠法改正案が閣議決定したというニュースが飛び込んできた。改正案のうち、注目されるのが「建築物の外観・内装デザイン」が新たに意匠法の保護対象になること。これまで対象外であった建築物の外観・内装デザインを登録すれば、権利者以外が模倣した場合、排除を求められるようになるというものだ。通常国会で成立を経て、19年春に公布、2020年春の施行となる見込み。これまでの意匠法では、物品などの動産を保護し、建築物や土木構造物などの不動産は対象外だった。また著作権法で保護されるのは、いわゆる「建築芸術」だけだったのだ。

このニュースで想起するのが「そっくりコメダ」の係争事件だ。和歌山県の「マサキ珈琲中島本店」【(株)ミノスケ】が、ログハウス風の外観やウッディなインテリア、食器デザインに加えて、メニュー構成やメニューデザイン、サービスまでも酷似していることに対し、コメダ珈琲店を運営する(株)コメダが申し立てを行い、東京地裁により使用差止と損害賠償を求める仮処分命令がくだった事件だ。結果としてミノスケ側は改装して営業を継続することになったが、この係争の法的な根拠となったのが不正競争防止法だった。不正競争防止法は、競業秩序の維持を目的とする一般法の位置付けで、知的財産権自体を直接に保護する法律ではない。コメダでは、係争中の2016年2月、郊外型店舗の外観デザインを立体商標出願し登録し、権利を堅固なものとしようとしていた。

トレード・ドレスってなに?

こうした店舗デザインの保護に関し、米国など諸外国には「トレード・ドレス」という制度がある。トレード・ドレスは、いわば商品のデザイン、あるいは商品サービスの全体的なイメージを指し、飲食店の場合では、店舗の外観や看板、内装、従業員のユニフォームなど、消費者にその製品の出所を表示する、視覚的な特徴を指している。米国ではランハム法により、公的登録をしなくても保護されている。日本の特許庁でも検討がすすめられているというが、国際的にも定義が確立されておらず、保護される対象も定まっていないなかで、議論も緒についたばかり。さらにいえば、もともと創造と模倣、もしくはインスパイアの間で、明確な線引きは容易ではなく課題は山積だろう。商標、意匠、不正競争防止法、そしてトレード・ドレス──各方面から、マーケットの実態に則した未来思考の制度設計が必要かもしれない。ちなみに、意匠登録の要件は、新規性と創作非容易性(容易に創作できる意匠でないこと)。建築物デザインの法的保護をお考えの方は、お気軽にご相談ください。

特許業務法人プロテック プリント版ちざいネタ帖 Vol.38 2019/03/20より

おタカラ発掘セミナーを開きました

2019年2月13日水曜日18時から弊所会議室にて

おタカラ発掘セミナーを開催しました。

講師一名と

お客様お二人、

合計3人で二時間近く、

活発な議論が交わされました。

コンピュータの絡む特許、

コンピュータの絡まないシステム特許(いきなりステーキ)、

を中心に特許のねらい目がどこにあるか

浮き彫りにすることができたと

感じています。

3月も行いたいと考えています。

近々、お知らせするつもりです。

ご期待ください。

文化の盗用と知的財産

2018年末、米ディズニーに対し、映画『ライオン・キング』の挿入歌タイトルになっているスワヒリ語の「ハクナ・マタタ」(スワヒリ語で「問題なし」「心配なし」の意味)の米国商標登録の取り消しを求めるインターネット署名に、およそ11万人の署名が集まったというニュースが報じられた。

署名活動は、『ライオン・キング(実写リメイク版)』の2019年公開に先立ち行われているもので、ハクナ・マタタという言葉は、タンザニアやケニア、ウガンダ、ルワンダ、ブルンジ、モザンビーク、コンゴ民主共和国などスワヒリ語圏に住む人々のほとんどが使用していると主張。つまり、「文化の盗用」にあたるとして、世界中から賛同者が集まった。

「文化の盗用」という言葉は、英語の「cultural appropriation(カルチャル・アプロプリエイション)」が訳されたもの。盗むというニュアンス以外に「私物化」の意味がある。

ある種のコミュニティにとって文化や宗教的な背景のある伝統を、縁もゆかりもない人が、相手の許可なく勝手に使うことを意味している。文化的背景を理解せずにトレンドとしてあおるような行動は、人種差別であるとして、グローバル社会の進展とともに批判の対象となってきた。

例えばグアテマラでは、先住民族マヤ族の儀式に用いられる伝統的模様の織物を、マヤ族以外の者が土産物として製造・販売。マヤ族は憤慨し「観光客を呼び込むために私たちは餌として使われてきました。しかも私たちの衣装、文化、工芸品のもたらすお金は先住民の私たちの元へは戻ってきません」(Global Voiceより)と訴え、グアテマラ政府に対し、マヤ族の織物に特許権を与えることを主張している。

ジャングル大帝と似てる?

このほかにも、オーストラリア出身のモデル ミランダ・カーが、着物風衣装で『VOGUE JAPAN』の表紙を飾った際には批判を受けたが、これは大半が海外からの反響だったそうだ。一方、日本の観光地で外国人がレンタル着物で撮影した画像をSNSに投稿しても批判の対象にはならない。つまり、文化の盗用は、背景やそこにいたる文脈が重要視され、さらにいえば社会におけるマジョリティとマイノリティの位置づけなど、関係性が複雑に絡んで判断材料になってくるわけだ。

ところで、冒頭に挙げた映画『ライオン・キング』、もともと手塚治虫の『ジャングル大帝』のパクリではないかと以前から噂されてきた。キャラクターやプロット、構図など多くの酷似点があるというのだ。虫プロの反応は、「(ディズニーファンだった故手塚治虫が知ったら)むしろ光栄だと喜んだはずだ」とコメントしたとか。日本人らしい反応だったかもしれない。

特許業務法人プロテック プリント版ちざいネタ帖 Vol.37 2019/01/25より