アディダスの3本線と識別力

我がオフィスのある渋谷の街を消しゴムのMONOデザインのバスが走った6月下旬。アディダスの3本線が、EU裁判所により商標登録を認められなかったというニュース(ロイター)が流れてきた。

アディダスでは2014年、同じ幅の3本の平行線が等間隔に配される「図形商標」を、衣料、靴、帽子などの区分で商標登録。これに対しベルギーのシュー・ブランディング・ヨーロッパが無効審判を申し立てた係争事件だ。

アディダスの保有する欧州連合の図形商標(EUTMM012442166号)を確認してみると、「本マークは商品に任意の向きで付された3本の等間隔・等幅のストライプである」と記載され、縦にモノクロで直線3本が並んでいるだけ。つまり、どの部位につけようが、どの向きにしようがアディダスが権利をもつという、非常に権利範囲の広い商標だった。このほか、アディダスの3本線の商標は、台湾企業など複数の国で係争の対象になっている。商標ではもっとも重要視される「識別力」の観点からみると、普通の模様と区別がつきにくくシンプルすぎるとでもいおうか。EU裁に際し、アディダスではEU域内5カ国内のデータを提出したが認められなかった。また、アディダスは他にもスニーカーやスポーツウエアの左袖など特定の場所に特定の向きで3本線をつける図形商標登録している。

識別力をいっそう強固に

ところで、冒頭に挙げたMONO消しゴムデザイン。おなじみの青・白・黒のトリコロール&ストライプは社内デザイナーによるオリジナル作品だ。

われわれ知的財産業界では、このMONOカラーといえば、色商標登録第一号(登録第5930334)として知られている。色商標(色からのみなる商標)とは、2015年4月1日から出願が開始された新しいタイプの商標制度で、形状によらず特定の色だけで特定企業が独占できる非常に強い権利だ。そのため、一般消費者にどれだけ浸透しているか、認知されているかが登録の要件で、ハードルも高い。

MONO消しゴムのデザインは、50周年の節目にあたる今年7月5日、歴代のMONOデザイン5種をセットにした「モノカラー誕生50周年記念セット」(5個入り税別600円)を発売。ピンバッヂのおまけつきだ。SNSで話題を呼んだラッピングバスをはじめ、Webサイトなどでは「これであなたもMONO知りキャンペーン」を大々的に実施し、同デザインのモノリュック、モノスニーカー、モノTシャツをプレゼントしている。

色商標や図形商標の観点からみると、いかに消費者にそれが浸透しているかの「識別力」がカナメ。各種のキャンペーンも、識別力をいっそう強固なものにしようする企業姿勢がかいま見える。

特許業務法人プロテック プリント版ちざいネタ帖 Vol.41 2019/07/09より