パクリとインスパイアの境界線

パクリ騒動で、すっかりミソのついた五輪エンブレム問題。商標法だけの観点でみると、マーク自体に類似する先願は存在しなかったことが判っている。それではなぜ、取り下げるに至ったのか──。

それは、著作権に 抵触する可能性が大きかったため。当初、使用差止を求めたベルギーの劇場(後に取下)やデザイナーが主張しているのは、創造的に表現した自らの著作物に、依拠または盗用して いる疑いがあるからだ。デザイナーS氏 が、洋酒メーカーのエコバッグ・デザインにパクリであったことを認めたことで、いっそう倫理的・感情的な問題として膨張していった。事実関係はといえば、いまも闇のなか。本人が沈黙している限り、白日の下にさらされることはない。

ヴィトンの楽器が誕生か?

ところで、第67回正倉院展(2015年10月24日〜11月9日・奈良国立博物館)で、1300年前の「紫檀木画槽琵琶」をメインビジュ アルにしたポスターが公開されるや、ちょっとした論議が巻き起こった。
というのも、ペルシャに起源をもつという四弦琵琶の背面デザインが、ぱっと見たところ、ルイ・ヴィトン社の代表的な図柄「モノグラム」にそっくりだから。紫檀の濃い茶色に、象牙や緑に染めた鹿の角などを組み合わせた小花模様がナナメに規則正しく並び、遠目には、ヴィトンが琵琶をつくりはじめたかのようさえに見えてしまう。

偽造品対策として誕生したモノグラム

ルイ・ヴィトン社のモノグラム・キャンバスは、1896年、 偽造品対策&世界的ブランド確立のため、2代目のジョルジュ・ヴィトンにより考案されたもの。パリ万博をきっかけに大流行していたジャポニズムの影響を受け、日本の家紋に「インスパイア」(=触発)されたものと伝えられている。しかし、モノグラムのバッグを見て、日本の家紋をイメージする日本人は少ない。これぞ、オリジナルの著作物というわけだ。また、五輪エンブレム問題以上に、正倉院の収蔵品を100年以上前のフランス人が参考にしていたかどうかを検証することは不可能に近い。つけ加えれば、1300年前の琵琶だから、著作権も切れている。

ルイ・ヴィトン社では、「偽造は、児童・強制労働などと同じく人権を侵害する行為であり、コミュニティに被害を与えるもの」と明言している。知的財産が社会的資産であることを物語る査証だろう。

特許業務法人プロテック プリント版ちざいネタ帖 Vol.3 2015/11/01より