意匠法改正と建築物の知的財産

2019年3月1日、意匠法改正案が閣議決定したというニュースが飛び込んできた。改正案のうち、注目されるのが「建築物の外観・内装デザイン」が新たに意匠法の保護対象になること。これまで対象外であった建築物の外観・内装デザインを登録すれば、権利者以外が模倣した場合、排除を求められるようになるというものだ。通常国会で成立を経て、19年春に公布、2020年春の施行となる見込み。これまでの意匠法では、物品などの動産を保護し、建築物や土木構造物などの不動産は対象外だった。また著作権法で保護されるのは、いわゆる「建築芸術」だけだったのだ。

このニュースで想起するのが「そっくりコメダ」の係争事件だ。和歌山県の「マサキ珈琲中島本店」【(株)ミノスケ】が、ログハウス風の外観やウッディなインテリア、食器デザインに加えて、メニュー構成やメニューデザイン、サービスまでも酷似していることに対し、コメダ珈琲店を運営する(株)コメダが申し立てを行い、東京地裁により使用差止と損害賠償を求める仮処分命令がくだった事件だ。結果としてミノスケ側は改装して営業を継続することになったが、この係争の法的な根拠となったのが不正競争防止法だった。不正競争防止法は、競業秩序の維持を目的とする一般法の位置付けで、知的財産権自体を直接に保護する法律ではない。コメダでは、係争中の2016年2月、郊外型店舗の外観デザインを立体商標出願し登録し、権利を堅固なものとしようとしていた。

トレード・ドレスってなに?

こうした店舗デザインの保護に関し、米国など諸外国には「トレード・ドレス」という制度がある。トレード・ドレスは、いわば商品のデザイン、あるいは商品サービスの全体的なイメージを指し、飲食店の場合では、店舗の外観や看板、内装、従業員のユニフォームなど、消費者にその製品の出所を表示する、視覚的な特徴を指している。米国ではランハム法により、公的登録をしなくても保護されている。日本の特許庁でも検討がすすめられているというが、国際的にも定義が確立されておらず、保護される対象も定まっていないなかで、議論も緒についたばかり。さらにいえば、もともと創造と模倣、もしくはインスパイアの間で、明確な線引きは容易ではなく課題は山積だろう。商標、意匠、不正競争防止法、そしてトレード・ドレス──各方面から、マーケットの実態に則した未来思考の制度設計が必要かもしれない。ちなみに、意匠登録の要件は、新規性と創作非容易性(容易に創作できる意匠でないこと)。建築物デザインの法的保護をお考えの方は、お気軽にご相談ください。

特許業務法人プロテック プリント版ちざいネタ帖 Vol.38 2019/03/20より